今回の訪問先は、茅ヶ崎中央34番の神奈川県都筑警察署。区役所・消防署・総合病院・郵便局など主要施設が集中している一画にある。

「警察のごやっかいになりたくない」思いは誰でも持っているが、私も自動車免許更新の時しか訪れたことがない。

でも区民の安全を守ってくれる都筑警察署について、具体的にほとんど知らないことに気がついた。彼らの仕事をレポートするのも意義があると思い、お邪魔することにした。

生活安全課長の杉山さんと、生活安全課防犯経済保安係の村田さんが取材に応じてくださった。


 横浜市でいちばん新しい警察署 

神奈川県には54の警察署がある。都筑警察署は、都筑区発足6年後の平成12(2000)年5月から業務が始まった。横浜市では、もっとも新しい警察署である。

庁舎の1階には、警務課・会計課・地域課・交通課、2階には警務課管理係、3階には生活安全課・刑事課・交通課指導係・警備課がある。4階は講堂と道場。細分化されているので、どこの課を訪ねればいいか分からない場合は、1階で聞いた方がよさそうだ。

3階の生活安全課のみなさんは、全員が私服を着ていた。「警察といえば制服」と思いがちだが、都筑警察の署員およそ200名のうち、制服組は地域課・交番・パトカー勤務のおよそ100名。

杉山課長(左)は、私たちの質問にもパワフルに答えてくれたが、取材中に部屋に入ってくる課員にも、てきぱきと指示していた。

部屋には「俺がやらなきゃ誰がやる 誰かがやるなら俺がやる」など数種の標語が張ってあった。区民の生活安全を守ろうという課員全員の意気込みが、伝わってくる。



     8ヵ所の交番と1ヵ所の連絡所しかない 

区内には、8ヵ所の交番と1ヵ所の連絡所がある。都筑区の人口はもうすぐ20万人。人口は中都市と同規模なのに、交番は8ヵ所。割り算すると、1ヵ所の交番が受け持つ人口はおよそ25,000人にもなる。

「ひとつの交番が受け持つには人数が多すぎませんか。これで安全が保たれるんでしょうか」と聞いてみた。「その通りです。人口は増えるのに交番の数も署員も、簡単には増やせません。交番は24時間勤務なので、6人ぐらいで3交代すると、常駐する警察官は1人から3人ぐらい。交番におまわりさんいないという不満も聞きますし、ご迷惑をかけていると思います」と杉山さん。

私は長年都筑区に住んでいるが、おまわりさんがパトロールしているのを見たことがない。ときどきパトカーを見かけるだけだ。家族状況も10数年前に調査されたにすぎない。「そうなんです。何かあった場合の緊急連絡先なども把握しなければいけないんですが、現状では手が回りません」。

どこの交番にも必ず「KOBAN」とローマ字表記がある。これは日本の交番制度が、世界的に認知されているからだと聞いたことがある。世界的な「KOBAN」にふさわしい施設になるには、常日頃の活動が大事だと思う。区民の安全のために、もっと増設・増員して欲しいものだ。

交番の設置年代をみると、都筑の発展の様子や歴史がわかる事に気がついた。

1.大棚町連絡所(明治22年3月
2.池辺町交番(明治41年5月
3.川和交番(昭和48年5月)
4.荏田東交番(昭和59年12月)
5.折本交番(平成3年11月)
6.中川駅前交番(平成6年3月)
7.仲町台交番(平成9年3月)
8.センター北駅前交番(平成17年4月)
9.北山田駅前交番(平成20年3月

このあたりが横浜市ではなく都筑郡だった頃、大棚町と池辺町は郡の中心だった。いちばん古い大棚交番は、100年以上前の明治22年の設置というから驚く。その由緒ある交番は、北山田駅前交番が出来たことで、連絡所に格下げされた。昭和の後半から平成にかけての設置が大半なのは、ニュータウンの発展を物語っている。

3月に開設したばかりの北山田駅前交番。 KOBANは世界に知られている 区内に3台ある「警ら車」と鈴木さん

北山田駅前交番に行って、鈴木巡査部長から話を聞いてきた。「以前はパトカーに乗っていましたが、現場が好きなので、両方ともやりがいのある職場です。地域の役に立っていると思うと嬉しいんです」と鈴木さん。話を聞いている間にも「ケーキ屋さんを教えて」「不動産屋はどこ?」など町の情報を求めて立ち寄る人がたくさんいた。


  振り込め詐欺の被害は県下で8番目

マスコミであれだけ報道しているのに、振り込め詐欺、特に還付金等詐欺が急増している。振り込め詐欺は、オレオレ詐欺・還付金等詐欺・架空請求詐欺・融資保証金詐欺の総称だという。もっとも多いのはオレオレ詐欺だが、急増しているのは「還付金等詐欺」。

神奈川県では今年1月から9月に、1042件の振り込め詐欺が発生している。被害総額は約22億円にものぼる。平均で200万円の被害。特に都筑区は、県内54署のうち8番目に多い。

そこで、全国の警察署は10月を振り込め詐欺撲滅月間として特に力を入れた。都筑署も「振り込め詐欺撲滅対策本部」を設置し、警察官を無人のATM機や銀行に配置して、必死で被害防止に努めた。

何枚もチラシ(左)を受け取ったり、声かけをされるなど嫌な思いをした高齢者がたくさんいることだろう。

にもかかわらず、10月だけで都筑区の被害者は3人もいた。そのうち1人は、ネットバンキングで振り込んだので、警察官の目は行き届かなかった。2人は、「詐欺ではありませんか」と声をかけたのに、「私が引っかかるはずありません。失礼なこと言わないで」とが「家庭の問題ですから」と聞く耳を持たなかったという。ちなみに、未然に防ぐことができたのは1件だ。

杉山さんによれば「他人の話を聞かない、聞く耳を持たない人が、被害にあっています。息子を助けたい家族愛や、借金があるなら返さなければならないという真面目さ・律儀さが、利用されてしまうんです」。

「被害者は70%ぐらいが女性。そして80%が65歳以上の高齢者。月〜金のATM機が使える時間帯に家にいるのは女性と高齢者ですからね」。左グラフは神奈川県の今年1月から9月までの年代別男女別のグラフ(神奈川県警のサイトを借用)だが、60歳代の女性がもっとも被害にあっている

還付金詐欺は、オレオレ詐欺のように「振り込んでくれ」と依頼するのではなく、逆に「払い戻す」という上手い話なので、引っかかりやすい。「ケータイを持ってATMに行け」と言われたらそれは詐欺と疑った方がいい。

「それって振り込め詐欺じゃないの?」と言いながら、結局は振り込んでしまった例もある。敵は次から次と新手を考えてくる知能犯だ。「私は大丈夫」という考えを捨てた方がよさそうだ。


  110番の警官負担件数は県下一

平和に思える都筑区だが、実は110番にかかってくる件数が実に多い。警察官1人が扱う負担件数は県下一。110番通報が多い割には警察官が少ない。

いちばん多いのが、駐車違反の苦情。自分の家の前に駐まっていようものなら、すぐ電話がくる。夫婦喧嘩・親子喧嘩恋人同士の喧嘩で呼び出されることもたびたびある。単なる口論が多く、警察官の入る余地がない場合も多い。近所の子が虐待されているのではないかの通報もある。

野良犬が歩いている、蜂の巣がある、家のキーを無くしたので助けて欲しいなど、総じて「こんな事で110番をかけるのか」と思う例が多い。近隣との交流が薄くなり、自分たちだけで解決できなくなっているからかもしれない。救急車の乱用で、ほんとに必要な人を助けられない話はよく聞くが、110番でも同じようなことが起きている。


上のグラフは、平成20年9月の区内の犯罪発生状況グラフ(都筑警察署発行)。一見してわかるように、自転車の盗難が多い。1月から9月で500台もが盗難にあっている。鍵をかけない場合が多いが、補助錠をつけていても盗まれる事もある。自転車の場合は盗む人にも罪の意識がなく、被害者もたいして痛手に思わないので、増える傾向にあるが、モラルの問題だと思う。

自動車の被害も多い。車上ねらいだけでなく、1台まるごと持ち去られてしまう。施錠していても、手口が上手い。都筑区や青葉区は第三京浜や東名のインターに近いので、自動車泥棒には絶好の地らしい。千葉県に運んで、ナンバーなどをはずしてから外国に売る。

ショッピング街が多いので、万引きも多い。杉山さんは都筑区に赴任後、3人以上の生徒が検挙されている学校の校長に手紙を書いた。その直後は一挙に万引きが減ったが、校長も生徒も変わるので、学校を回って万引きが罪であることを生徒に話す機会を持っている。「こういうことは家庭のしつけだと思うんですけどねえ」と杉山さんは、モラルの低下にため息をついた。

凶悪犯は非常に少ない。犯罪ではないが、交通事故も人口比率にすると少なく、管内での死亡事故は1年に1件あるかないかである。こうしてみると、110番の多さとは裏腹に安心度が高い区ではないだろうか。

  身体を鍛える 

庁舎の4階に、広々とした道場がある。交番勤務につく警察官は、ここで柔道や剣道の稽古をしてから仕事に向かう。北山田駅前交番勤務の鈴木さんも、週に2〜3回は道場に通うそうだ。

区民を護るには、日頃から身体を鍛えておかねばならないし、自分が傷を負わないためにも鍛錬が必要だ。訪れた日は、翌日の慰霊祭の剣道・柔道大会に向けて練習に熱が入っていた。 栄区にある警察学校の道場に、県下の警察署すべての代表が集まっての大会だ。慰霊祭は、殉職した警察官の霊をなぐさめるものなので、遺族の方々も参列される。

柔道の稽古 署員の練習を真剣にみつめる福島署長 剣道の稽古では元気な声が飛び交う。

真剣なまなざしで練習試合を見学していた福島署長は、私たちにもにこやかに挨拶してくださった。今回の取材で4人の方にお会いしたが、どの方にも区民の安全を守りたい気持ちが溢れていた。警察は怖い所という先入観を打ち消してくれた訪問になった。(2008年10月末日訪問 HARUKO記)

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