都筑区東山田にお住まいの末岡聡一郎さん(45歳)を訪問した。

テノール歌手としての歌声は区役所の区民ホールで聴いたことがあるが、それだけだったら、インタビューをお願いしなかったかもしれない。

名刺にはテノール歌手以外に、ミライスタジオOKA代表、歌を歌って誤嚥(ごえん)予防講師、ビジネスマンの為のボイストレーナーとある。

末岡さんご夫妻の誤嚥予防の歌う会に参加している友人が「声の出し方も教えてくれるし、奥様との掛け合いも楽しいのよ」と言っている。誤嚥性肺炎で亡くなる方が多い今、誤嚥予防についても聞いてみたいと思った。

末岡さんは月に2回は出身地である福岡県でも指導している。文字通り東奔西走の毎日だが、スキマ時間を見つけて会ってくださった。

音楽家は気難しいという先入観があったが、素人の私にも分かるように話して下さり、約束の2時間はあっという間に過ぎた。



ご夫妻が都筑で活躍 

「都筑区にはいつからお住まいですか。みなさんに聞いているのですが、なぜこの地を選んだのでしょう」

「2015年の結婚を機に、最初は北山田に住んでいました。妻(ソプラノ歌手 国立音楽大学卒の川原千晶さん)の実家が北山田なんです。5年前に今の東山田に移りました」

「10年間暮らしてみて都筑の印象はいかがですか」

緑道があるので毎朝30分ほど走っています。ボッシュホールも出来て地元での演奏の機会も増えそうだし、地域のみなさんとの交流も楽しいです

末岡さんの話に出たボッシュホール(横浜市都筑区民文化センター)は、2025年3月16日に開館記念式典が行われた。下は、「つづき交流ステーション」が式典の様子をレポートした時の写真。



科学専攻から音楽の道へ 

「経歴を見て驚いたのですが、鹿児島大学の理学部地球環境科学で、音楽とは無関係の学問をなさっていたのですね。科学と音楽は結びつかないのですが、どういう心境の変化だったのですか」

「卒業後はガス会社に勤めましたが、レールの先が見える生活が嫌になったのです。ストレス解消のために声楽を習っているうちに音楽を本格的に学びたくなり、会社を退職。熊本にある平成音楽大学に編入学しました。母はピアノの先生だし、父も反対しませんでした」

編入して驚いたのは、いきなりドイツ語で歌わされたことです。鹿児島大学で第2外国語としてドイツ語は専攻していましたが、レベルがちがいます。オペラは、イタリア語かドイツ語かフランス語が一般的です」

「でも平成音楽大学で、イタリア人の先生や在原先生にレッスンを受ける機会があったのですね」

それはとても幸運なことでした。卒業後は東京に出てアルバイトしながらレッスンに励みました。そのうち聖歌隊などにも呼ばれるようになり、道が開けました」

「2013年にはイタリアのミラノに留学。ヴィットーリオ・テッラノーバ氏に師事し、オペラ歌手として舞台に立てるようになりました」


「『魔笛』のタミーノ役や『ロミオとジュリエット』のロミオ役など、素晴らしいご活躍ですね」

写真はオペラ「ローエングリン」で合唱団として出演した時。

「でも日本では、オペラの舞台で歌うだけで生活できる方は非常に少ないんです。オペラが日本人に根付いていませんから仕方ないことですが」


 歌って誤嚥性肺炎を予防

「誤嚥性肺炎の予防講座を、横浜ばかりでなく出身地の福岡でも開いていますね」

写真は福岡市和白公民館での講座(一部を切り取っている)。

「月に2度は福岡の各地で指導していますので、行ったり来たりの生活です。40歳を境に、喉の機能は衰えてきます。喉の衰えは食の衰えになり、全身の衰えに繋がります。国も介護予防に力を入れ始めたので、ケアプラザなどの職員も、喉を鍛えることに協力的です」

「誤嚥性肺炎で亡くなったというニュースをよく聞きます。喉と肺炎の関係がよく分からないのですが」

喉頭の上の筋、喉頭蓋の閉まりが悪くなると、食べ物が食道に入らず気道に入ってしまいます。それが肺炎を引き起こし、今は誤嚥性肺炎は死亡原因の7位です」

「それを防ぐために、みんなで楽しく歌っています。喉を鍛えるには、おしゃべりも良いのですが、歌は音程があるので、効果が高いのです」


末岡先生の講座は、東山田ケアプラザ、東山田コミュニティハウス、葛が谷ケアプラザ、新羽ケアプラザ、高田ケアプラザなどで開いている。日程は施設ごとに違うので、町内会などの「お知らせ」をチェックしていただきたい。


楽しくボイトレ ヴォラーレ 

ボイストレーニングのサークルのひとつ「ヴォラーレ」に参加させてもらった。ヴォラーレは、イタリア語で飛翔するという意味。男女一緒のボイストレーニングのサークルである。

今日の曲目は、春一番・朧月夜・花・青葉城恋歌・花の街・港が見える丘・かなりや。この時期に相応しい曲ばかり。楽譜と歌詞を渡してくれるが、千晶先生のピアノ演奏と末岡先生の時々入る歌声のおかげで、楽譜が読めない筆者もなんとか歌える。

「この部分は声を張り上げて、心を残すように、余韻をもって、明るく響かせて・・」などの細かい指導に、なるほどと思いながら歌ってきた。少しは喉が鍛えられたかもしれない。

下の写真は当日の一コマ。真剣で楽しそうな眼差しが印象的。


団長の山元さん(090-1262-7107)は男性だが「参加者は50人ほどですが、女性が断然多いです。女性は楽しみ方を知っているし、前向きなんでしょうね」と話してくれた。

「ヴォラーレ」の場合は、東山田地域ケアプラザで 第1第3水曜日 10時から11時30分。参加費は1回1,000円。
見学にも応じている。

他に男性だけの「東山田men'sボイトレクラブ」もある。故本庄奎司さんの夢を引き継ぐ形で、東山田ケアプラザの堂前所長と立ち上げた。


音響が素晴らしいボッシュホール  


区民待望の「ボッシュホール」が3月16日開館後、いろいろな催しが開かれている。

筆者は開館前の公開見学の日に舞台に立ったことがあるが、本格的なオーケストラが出来るほどの広さに驚いた。案内の方が「音響が素晴らしい」と説明してくれた。その割には客席が約300と少ないのが残念だ。

左のチラシは5月24日のコンサートのお知らせ。写真上のお2人がテノールの末岡聡一郎さんとソプラノの川原千晶さん。

他にピアノの吉田修子さん、同じくピアノの中村あやのさん、ヴァイオリンの稲川理沙さん、チェロの村井陽子さん、ファゴットの石井毅彦さん、コントラバスの稲川永示さんが出演する。

開場は13時30分。開演は14時。チケット代は大人4,000円、子供2,000円。

チケットは、都筑区総合庁舎売店かボッシュホールの受付かミライスタジオOKA(090-5734-9057)で求めることができる。

その前の4月24日(木)にも末岡さんご夫妻が出演する「名曲コンサートin横浜」もあるが、残りの席はほとんどないという。

若い人が多いと言われる都筑区だが、高齢者も増えている。都心まで出かけるのが億劫になっているシニア層にとって、同じ区内で名曲が聴ける場があるのは、本当に幸せだ。


2度にわたる取材に時間を割き、ていねいな対応をしてくださった末岡さんにはあらためてお礼を言いたい。これからも音楽会、歌の指導、誤嚥予防講座をぜひ続けて欲しい。いつの日か奥様の千晶さんにも話を聞きたい。聡一郎さんに劣らず楽しそうな方である。


                   (2025年3月と4月訪問 HARUKO記)

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