広井さん 前回の行政書士・安藤優介さんに紹介されて、広井顕真さん(60歳)に会ってきた。安藤さんが若い頃に、同じ職場にいたご縁だという。

「広井さんは区民の歌”夢のつづき”を作詞作曲したんですよ」の、安藤さんの何気ないひとことに惹かれた。

「それにね。彼は”歌の宅配便”もしているんです」と付け加えた。「なんだろう、歌の宅配便って」

こうなりゃ”歌の宅配便”の現場に同行するしかない。運のいいことに、取材を受けてくれた数日後に、”歌の宅配便”の予定が入っていた。敬老の日に、区内の某老人ホームで行われたイベントに付いていった。

その後、彼の自宅兼スタジオ・アポロ21世紀に場所を移動し、長時間の取材になった。広井さんは話しだしたら止まらない話好き。


 夢のつづき


優秀賞の賞状都筑区誕生から間もない平成10(1998)年に、区民の歌「夢のつづき」が決まった。公募したところ、50曲もが寄せられたという。

そのなかで最優秀賞を受賞(左)したのが、広井さん作詞作曲の「夢のつづき」だ。賞状には「広井茂」となっているが、ミュージシャンとして活動するときは広井顕真を使っている。

区民の歌があることは知っていたが、実際に聞いたことはない。区役所のエレベーター内にメロディーが流れていたり、区民まつりで歌われるらしいが、うかつにも気がつかなかった。

「何十年もこの土地に住んでいますが、ごめんなさい、”夢のつづき”を知らないんです」と話したところ、すぐCDで聴かせてくれた。作詞作曲ばかりでなく、歌っているのも広井さんだ。伸びやかな歌声、ふるさとを自慢したくなる歌詞、癒されるメロディ。矢印をクリックすると歌が流れる。


広井さんが都筑に越してきてから、20年余が過ぎた。奥様の友人が住んでいる富士見ヶ丘を訪ねた時に「なんて空が広いんだろう」と、一瞬でこの地が気に入った。

この思いが冒頭の「どこまでも広い空・・」に歌われている。
「”ふるさとは遠きにありて想うもの”と言われますよね。でも僕は”ふるさとは近くにありて作るもの”だと思っています。だから”ここは我らが故郷”の歌詞にも思いを込めました」

銀賞の賞状広井さんが市町村の歌で受賞したのは初めてではない。市制100周年の富山県高岡市では銀賞をもらった。佐賀市100周年の時も銀賞(左)だった。

そして、平安遷都1200年の京都市の時も銀賞だった。この3都市のいずれも金賞を受賞したのは地元在住の人だった。

「この時に思ったんですよ。金賞は地元に住んでないとダメなんだなと。京都でさえ銀賞だから、都筑の地元民の僕が金賞をとるのは簡単ではないかと。でも逆にこれがプレッシャーになりました。発表を待つ間は、ほんとにドキドキしましたよ」

佐賀市100周年の歌は、作詞は奥様の由美子さん、作曲が広井さんである。荏田南幼稚園の園歌「ちきゅうはまわるよ」も奥様が作詞で、広井さんが作曲をしている。

「この園歌はいつも園児が歌っているそうです。僕の歌でいちばん歌われている歌でしょうね」

ちなみに、奥様は脚本家。NHKや民放のドラマ、映画の脚本や構成を多数手がけている。


 大学時代に作詞作曲

大学の入学式広井さんの音楽歴は長い。子どもの頃から歌が好きで、中学生や高校生のころはバンドを組んでいた。ビートルズや加山雄三が全盛時代。作って弾いて歌うスタイルに憧れた。

進学したのは音楽専門の大学ではなかったが、大学時代には作詞作曲を始めた。左写真は大学入学式の時。今もカッコイイが、当時もカッコイイ。

卒業後は、赤坂のクラブでお客さんの伴奏や弾き語りをしていた。

でもカラオケが主流になった1980年代になると、伴奏の仕事は減ってきた。伴奏じゃなく「自分が歌いたい」思いが強くなったが、歌手デビューするには、年齢でハンディがあった。


 人さまのためになる喜び

”歌の宅配便”を始めたきっかけは、阪神大震災だった。被災者のために作詞作曲した「がんばれ!!〜未来(あした)のあなたに」が神戸放送局の耳にとまり、被災地を回ってくれないかと頼まれた。

このときの笑顔と拍手が今でも忘れられない。「自分がしていることが、人さまのためになっているんだ。こんなに嬉しかったことはなかったですねえ」と、広井さん。

都筑での初コンサートは2000年。近所の老人ホームで、お年寄りが明るくなるような歌ばかりを歌った。この初コンサートが評判になり、これ以後、都筑公会堂、センター南まつり、センター北まつりの舞台や、母の日・父の日・敬老の日などのイベント日に呼ばれるようになった。区内ばかりでなく千葉、埼玉、東京や地方まで出向くこともある。

ギターを弾きながら歌う広井さん敬老の日に、区内の老人ホームに宅配された歌を取材がてら聴いてきた。100名ぐらいのお年寄りが、ある人は立ち上がって手拍子をとり、ある人は涙を流し、ある人は足でリズムをとり、ある人は身体全体を揺らしながら聴いていた。

広井さんが話していた「人さまのためになっている喜び」を、私までおすそ分けしてもらった。

この日の歌は「夏の思い出」「里の秋」「みかんの花咲く丘」「ふるさと」「知床旅情」「瀬戸の花嫁」「テネシーワルツ」「星影のワルツ」「夜明けの歌」「上を向いて歩こう」「明日があるさ

シニア世代にはどれも馴染みがあり、明日への希望がわいてくるような明るい歌ばかりだ。

「暗くなるような歌は歌わないようにしています。演歌は舞台の演出も必要ですから、ひとりでやるのは難しいですしね」

演奏がMDに入っている持ち歌は、この日の歌以外にもたくさんある。施設によっては、リクエスト曲ばかり
歌うこともある。持ち歌については歌の宅配便レパートリー集を見て欲しい。


 マルチな才能

スタジオ歌の宅配便は、広井さんひとりで何役もこなす。車にMDとギターと譜面台を積み、会場でのセッティングも自分でやる。歌の合間の会話や進行も軽妙にこなす。

自宅の一室にあるスタジオ(左)を、見せてもらった。ブルーの器械がMTR・マルチトラックレコーダーである。レコーダーというより、多重録音装置と言ったほうがわかりやすい。何人かでやる伴奏をこの器械で作ってしまうのだ。

キーボードやドラムをコンピューターに打ち込み、ギターやベースを重ねていく。コーラスのハモリも入れる。

楽器の演奏はもちろん、多重録音も全部広井さんがひとりでやっている。

作詞・作曲と歌ばかりではない。数々の楽器もこなし、伴奏も作ってしまう、そのマルチな才能に驚いてしまった。特に多重録音の世界などに疎い私には、得難く楽しい取材になった。


秋のコンサート

コンサートまだ現役で仕事をしているが、歌の宅配便の希望があれば、仕事はなんとか融通できる。

「土日以外でも飛んでいきますよ。気軽に声をかけてください」と広井さん。歌うことが楽しくてならない様子が全身から伝わってくる。

歌の宅配便とは別に、毎年恒例の「秋のコンサート」が近々開催される。「秋のフォーク・ソング&広井顕真 オリジナル・ソング特集」と銘打っている。

10月28日(日) 14時〜16時 
場所は「交流スペースSENCE」(センター南駅から徒歩5分)
曲は「サウンドオブサイレンス」「カントリー・ロード」「夢のつづき」「がんばれ!!〜未来(あした)のあなたに」「天国と地獄」など

詳細は、企画制作の「アポロ21世紀」に問合せを。045-944-2619。

                      (2012年9月訪問 HARUKO記)
                                      

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