二胡奏者のシェンリンさん(左)を訪問してきた。シェンリンさんは、2種類の名刺を持っている。1枚は「二胡 講師 演奏家」、もう1枚は「工学院大学孔子学院 中国アジア研究センター 研究員」。

そのどれにも、沈琳とある。Shen Lin というローマ字もついている。

でも「タイトルは、シェンリンにしてくださいね」という要望で、カタカナ表記にした。

シェンリンさんの「二胡教室」は、センター北駅から徒歩1分のビル(中川中央1-22-9)の4階にある。最初にレッスンの様子を見学。翌日、出直して話を聞いた。

レッスン後にインタビューすればいいのだが、次のレッスンが控えていた。翌日のインタビュー後も、都筑地区センターの「Spring Concert」にボランティアで出演。こんな風に超忙しい合間をぬっての出会いだったが、飛び切りの笑顔で、ハキハキと答えてくれた。


シラク大統領の前で独奏

シェンリンさんが生まれ育ったのは、中国の揚州。上海からバスで3時間ほどの、長江のほとりにある。

「揚州って、奈良の唐招提寺を建てた鑑真のふるさとですね」
「そうそう、鑑真のご縁で、唐招提寺の落慶法要(2009年)の時に演奏したんですよ。TBSのプロジェクトでした」

「今の私があるのは、両親が良い小学校に入れてくれたおかげです。その小学校は、普通の学科以外に芸能も教えてくれました。8歳のときに、上海から有名な二胡教授がきてくれたんです。すぐ弾けるようになり、数ヶ月後のコンクールで3位になりました」

左写真は、二胡を始めて2年目のころ。

その後も華々しい活躍が続く。12歳で初来日。日中友好特別演奏会で、難曲と言われる「ニ泉映月」を演奏した。

揚州大学音楽科在学中は、江沢民総書記主催のフランスのシラク大統領訪中歓迎会で独奏した。世界中のほとんどの人が知っている江沢民とシラク大統領。彼らの前で独奏したほどのシェンリンさんが、日本では気軽にボランティア演奏もしている。偉ぶらないでスゴイなあと心底思う。


 25歳で来日

揚州での活躍の場はたくさんあったが、25歳の時に「もっと広い世界を見たい」と就労ビザで来日した。

「国レベルの日中関係は、いつも緊張感があります。ご両親は反対しませんでしたか?」
「そりゃ反対しましたよ。一人っ子ですし。でも最後には、私の気持ちを分かってくれました」

「欧米ではなく日本を選んだのは、何故ですか」
「12歳で来日した時、日本人って素晴らしいなあと思ったんです。他国の民族音楽を静かに聴いてくれたうえに、大きくて温かい拍手。音楽を理解してくれる人がたくさんいると感じました。」
この気持ちは今も変わらない。「ずっと日本に住んで日中の架け橋になりたい」と、熱く語る。

来日の翌年、ご主人の菊池さんと出会い結婚。ずっと都筑区で暮らしている。「主人が都筑区を気に入っていたので、住むことにしました。私も大好き」

「ところで、土日もレッスンや演奏会で忙しいですよね。ご主人から不満は出ませんか」
「主人は私のスケジュールにあわせてくれるし、陰で支えてくれます。これから都筑地区センターで演奏しますが、伴奏のCDも、彼が作ってくれたんですよ。ほんとに幸せ」 ゴチソウサマ!

左写真は、都筑地区センターで行われたSpring Concert。「蘇州夜曲」「春よ来い」「情熱大陸」など、日本生まれの曲も演奏した。


二胡は楽団の主役

ところで、二胡はどんな楽器なのだろう。シェンリンさんの演奏を何度か聴いているので、音色は知っている。でも手に取ったことはないし、近くで見たこともなかった。今回の取材で、初めて手に触れさせてもらった。

縦に並べた写真のいちばん上は、シェンリンさんが、手を取って指導しているところ。膝の上に置き、縦に抱えて弾く。琴筒は六角形。一面はニシキヘビの皮で覆われ、もう一面は透かし彫りになっている。弓は、漂白した馬の尻尾を使う。

この小ぶりな楽器・二胡から、癒しの音色、包み込んでくれるような音色、情感あふれる音色が次々と出てくる。もっとも、2本の弦の間に弓をギコギコしたからとて、すぐに良い音色は得られない。当たり前だけど。

中の写真は、シェンリンさんの二胡。「これは300万円もするんです。もっと安いのもありますから、安心してください」と、笑いながら説明してくれた。

下の写真は、いわゆる楽譜。オタマジャクシではなく数字が並んでいる。民族楽器は、「数字譜」を使うことが多いそうだ。


二胡は、中国の民族楽器の楽団「女子十二楽坊」の演奏で、日本でも知られるようになった。その楽団で第1バイオリンの役割、つまり主役を果たしているのが二胡である。


 二胡を習う人が増えている

インタビューをするまでは、日本で二胡がこんなにも普及していることを知らなかった。全国に二胡教室があり、中国人だけでなく日本人の講師もいるほどだ。

シェンリンさんの教室は、個人レッスンとグループレッスンに分かれている。生徒は、9歳から89歳まで。年齢層の幅も広いが、生徒の住まいも都筑区はもちろん、埼玉・東京・鎌倉と広範囲。

訪れた日は、11人が合奏の練習をしていた。
「ある程度できるようになったら、合奏が楽しいと思うんです。だから時々こうして合奏の練習をしています。もうすぐ発表会がありますし」

合奏とはいえ、「もっと軽く押さえて」「そこにメリハリをつけて」「急に加速しないで」「最初はメゾソプラノで」など、ひとりひとりに細かい指示が飛ぶ。レッスン中の真剣な顔も、終われば下の写真のようにみなさん笑顔。

4月27日にセンター南のスキップ広場で、このメンバー以外の仲間も含め、合奏することになっている。シェンリンさんがデザインして揚州で作ったチャイナ服を、全員が着る。二胡の音色も楽しみだが、チャイナ服の勢ぞろいは、想像しただけで艶やかだ。

演奏曲目は「世界に1つだけの花」「ニューシネマパラダイス」「おひさまのテーマ曲」など日本でおなじみの曲や中国の名曲「抜根蘆柴花」など。演奏は11時から11時半と午後1時半から2時の2回。




これからの演奏会

シェンリンさんの今後の演奏は、決まっているだけでたくさんある。

○4月27日 上で紹介した教室イベント (センター南スキップ広場)

○5月26日 二胡&ピアノのduo演奏(埼玉県秩父市)

○8月2日 シェンリンサマーコンサート(横浜かなっくホール)
       左は、去年同じホールで開かれた時のポスター

○8月25日 成瀬(町田)住宅公民館コンサート

○10月 第3回 沈琳二胡教室発表会(都筑公会堂)

詳細は、コンサート情報をどうぞ。

「ひと訪問」のたびに、「都筑にこんな人が住んでいてくれて、ありがとう」の気持ちになる。素晴らしい人に会えるのは、レポーター冥利につきる。シェンリンさんからは「日本と中国の架け橋になりたい!二胡の素晴らしさをたくさんの人に分かってもらいたい!」の熱意が伝わってきた。

「最近の日本と中国には、争いの種がたくさんあるけれど、私たち民間人が争いの種を吹き飛ばしたいわね。仲良くしましょうね」と話しながら、取材を終えた。

                                              (2013年3月訪問 HARUKO記)

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