地域活動サークル紹介ロゴ都筑里山倶楽部 炭焼き部会
区のキャピタル・都筑区役所にほど近い都筑中央公園で、月1回、竹炭が焼かれていることをご存知だろうか?
熱い昭和おやじたちのプロジェクトC?炭素?

炭焼きしながら日曜大工、楽しみ放題です

「オレたちは、ほら、駅前炭焼きだから」と、窯の火入れ前にやおら取り出したのは、ノートパソコンだ。これで窯内の温度の推移を記録しつつ、火力を観察し、時には調節するそうだ。「ふだんはこういう精密機器の耐久性を調べる仕事をしてるんだけど、炭焼き窯の土に直載せで使ってるところがあったなんて、まさかの想定外(笑)」 

 都筑里山倶楽部の炭焼き部会の活動は、毎月3日間を1クールとして行われる。第2土曜に竹を切りそろえて炭材を作って窯に詰め、第3土曜が炭焼き本番、第4土曜に完成した炭を窯から出して終了。訪ねた2月16日は、園内に二つある炭焼き窯のうち、ばしょうじ谷戸窯に火を入れる炭焼き本番の日。11人が集合した。

 本日の活動は、窯内の温度の変化に応じて火力を調節しながらなんと12時間。最初の3時間はとにかくガンガン薪を燃し続けるが、中の竹材が炭になり始めたら(熱分解)、燃すのを止め、燃焼でなく化学反応でさらに高温になるのを待つ。不純物を除く精錬に必要な800度に達したら窯口を閉め、熱だけ篭らせて密封して終了だ。

 つまり焚き続けて窯番をするのではなく、待ちの時間がけっこうあるわけで、いったいぜんたいそんな長時間をどうやってつぶすんだろうかと訝しんでいたら、チェーンソーや薪割り機、ノコギリにナタなどが次々と倉庫から取り出され、三々五々、しかもいそいそと何かが始まった。

そうそう、ほとんどの男って、こういう道具が大好きなのだ。日曜日のホームセンターに行けば、どう見てもサラリーマンのお父さんが、かなり専門的な工作マシンを、ひたすら嬉しそうに眺めたりさわったりしている姿をしょっちゅう見かけるではないか。

この日もどうやって使うのかよくわからない製材マシンや、火起こし機が登場したときは、「ああでもない、こうでもない」と盛り上がった。なるほど、ここは誰はばかることなく大工道具で遊べる、日曜大工天国でもあったのだ。

 かくいうものの、ただいじっているのではなく、道具を駆使して、公園の間伐材を再利用できるよう、断裁したり、切りそろえたりするのである。里山倶楽部の保全部会から運び込まれる間伐材は大量だ。だがなにしろ男手だらけである。みるみるうちに、見事にすっきり片付いてしまった。ほれぼれするほど、あっぱれだ。


炭焼きの写真
 
1 窯に火入れ。ふいご代わりは、パソコンのHD冷却用ファン! 初期は交代でうちわで煽ぎ続けたそう
2 AKBの振り真似? 違います。チェーンソーの安全な正しい使い方を確認し合っているところ
3 都筑里山倶楽部保全部会のお手伝い。間伐材は、薪にしたりシイタケのほだ木にしたりと再利用する
 4 子ども向けのイベントのために、火起こし道具の準備中。約3分で煙が出て、原始の火の採集に成功
 5 15分ごとのアラームで窯内の温度をチェックする。計測&記録はハイテク。火力調節は人力でローテク
 6 最後は窯を完全密封して火を消す。炎を消して熱だけを残し、ゆっくり冷やすことで、良質の炭ができる

空き時間は、バック・トゥー・昭和の少年

炭焼きの合間にするのは、日曜大工だけじゃない。誰かが「おっ、アカガエルがもう卵を産んでるぞ」と声を上げれば、「ありゃ、去年はいつごろだったかな」と、卵探しが始まる。都筑中央公園は、北部公園緑地事務所が管理しているが、そのうち一部の自然体験施設を都筑里山倶楽部が管理している。このばしょうじ谷戸窯周辺にも自然を体験できる棚田や池などが雑木林のなかに復元されている。

 最も若手でもおおむね五十路超えの炭焼き部会のメンバーが、えも言われぬ懐かしさを感じる風景である。天命を知り耳従う齢に達した、押しも押されもせぬオトナの男が、水たまりのほとりに横並びでしゃがんでカエルの卵を探してる場所なんて、ほかにあまりないのではなかろうか。

少年はぶっ倒れるまで遊んでしまうが、そこはオトナである。絶妙なタイミングで通称“マスター”がコーヒーを淹れ、自然なタイミングでブレイクタイムがスタートする。仕事も背景もまったく違うメンバーだから、話題は広い。お茶菓子が、実家の法事で仏前に供えたお菓子だったりするあたりが、またオトナ感満載なのだ。

夕方、「作りすぎちゃって食いきれねえ」と羨ましいことを言いつつ、メンバーのひとりが自分の畑から抜いてきたばかりのネギを差し入れた。そんならと、間伐材のほだ木で丸々と育ったシイタケも投入され、ここで焼いた炭に火をつけ、にわかに精進バーベキューが始まった。アツアツのところに醤油を垂らすと…こりゃ、いける! わいわい食べるうちに、そろそろ窯閉めの時刻である。えっ、もう12時間?! 朝はとても使い切れないと思っていた長丁場だったが、ほんとにあっちゅう間。浦島太郎の気分である。

都筑中央公園の写真
 
7 池でカエルの卵探し。「5月になるとヒキガエルのオタマがすごいんだ」と輝く目は、ほとんど小学生男子
 8 “違いのわかる男たち”が休憩時にチョイスするのは、サイフォンで淹れた本格的なコーヒーだ
寒いとはいえ、春はすぐそこ。隣の棚田には里山倶楽部が育てる菜の花が満開。甘い香りが漂っている
 10 シイタケもネギも、それを焼く炭も全部自家製。甘く香ばしく野趣あふれて、これがめちゃウマ!


住宅街で炭を焼くということ

第一声の「オレたちは、ほら、駅前炭焼きだから」を、“スマートで現代的”の意味と思い込んでいたが、12時間一緒にいるうちに、もっと複雑で現実的な意味合いであることがわかってきた。炭焼き窯から見渡す景色は里山そのものだけれど、実は170m先は住宅街である。だから、ばしょうじ窯の煙突の先からは、ゆらゆらと蒸気が上がるだけで、煙はまったく出ていない。
その秘密は、排煙をプロパンガスで燃して無害化しているからだ。都筑区のランドマークでもある、横浜市資源循環局都筑工場のあの青白煙突と、原理は同じシステムである。

昔ながらの炭焼きでは、煙突の煙を見ながら窯の中の様子を判断するのだが、ここでは煙が見えない分、窯内の温度を測り、管理しなければならない。パソコンや熱電対というハイテク温度計は、都市の公園で炭焼きをするためには欠くことのできない生命線なのである。にしても、ではどのような推移で温度を管理すれば良い炭が焼けるのかという、基本データが必要だ。そこで活躍したのが、何気なく置かれた円筒形の物体。通称「実験窯」だったという。

炭焼きの写真
 11  300〜800度で12時間も焼き続けるのに、煙突から排出されるのは無色無臭の煙だけ
 12  窯内の温度は常に計測され、推移はグラフとしてパソコン内に記録されてゆく
 13  窯内3ヵ所+煙突口の4ヵ所の温度を測る温度計「熱電対」はJAXAでも使う先進機器
 14  都筑里山倶楽部の炭焼きに初期から関わるメンバーにとって、実験窯は特別な存在だ


ばしょうじ谷戸窯今昔〜実験窯ものがたり〜

“のんびりしたスローライフ”をイメージしていた炭焼きが、にわかに“プロジェクトX”風の表情になってきた。そこで、2002年の開始以来、中心人物として初期の炭焼きに深く関わった北村博さんのお話を伺った。

「緑政局西部公園事務所(現・環境創造局)がばしょうじ谷戸にまずドラム缶の窯を作ったんだけど、彼らが最初の火入れをした段階で、すぐに近所から煙の苦情が出ちゃったんです。〜間伐材を公園の外に出さずにリサイクルする〜という、環境面で先進的な横浜市らしい発想はすばらしかったけど、若干、詰めが甘かった(笑)」

煙問題の解決のために白羽の矢が立った(押し付けられた?)のが、都筑中央公園自然体験施設管理運営委員会(現・都筑里山倶楽部)だ。同好会的なボランティア集団だったから、幅広い職種の人がおり、なかでも技術者が多かったのも幸いし、検討会では、さまざまな意見が出された。


「最初は炭に吸着させたり噴霧器で吹き飛ばしたりする方法でやってみたんだけど、煙の臭いも色も思うようには取れなくてね、次は排出口に農業用の布をフィルターのようにかけてみたんです。けれどフィルターはすぐ汚れちゃって、これもうまくいかなかったんですよ。試行錯誤しているところを、たまたま通りがかった方に呼び止められてね、『君たち、この煙をいったいどう思うんだね。僕は市の方へ訴える』って」。

とうとう行き詰まったかと思ったその時、温室の加温システムや聖火台の設計を行っていたメンバーが、煙を燃してみたらと提案した。これまでの方法に比べて費用はかさむが、背に腹は変えられぬと採用。プロパンガスを持ち込んで排煙を燃焼させたら、あれほど苦労した煙はすぐ無色透明になり、煙問題はたちどころに解決した。

ところが前述のように、煙の色は炭焼きの指標である。加えて、最初に作られたドラム缶窯には多くの不具合があり、全員が素人の炭焼き集団にとっては、検証しながら解決すべき問題が山積していた。
「もうやめちゃおうかって事務局の意見もあったんだけど、やりかけたからには、僕はどうしてもキンキンの硬い良い炭を焼きたくてね」

そこで試作されたのが、ドラム缶窯と同じサイズで、厚さ3.2ミリの鉄製の窯。据え置きで使うため、ホームセンターで購入した断熱材を巻きつけて保温効果を高めた。焚き口は可動式にし、熱だけを送り込む構造で、窯の上部を観察できるようにした。窯の温度を測るために採用された温度計が、宇宙航空研究開発機構 JAXAでも使っているという熱電対。この計器を使う仕事に就いている、また別の技術者のメンバーによって提案された。

「9時30分に火入れをして、普通の窯と違うから勝手が違って戸迷うこともあったけど、おおむね順調で、最後は家の近い僕ともうひとりが残り、深夜1時30分までかかって焼きました。翌日の午後1時に炭出しをしたら、目指すキンキンに硬い炭が出てきた。型崩れもなくて最高の品質。そりゃあ嬉しかった」

ひとつ解決すれば、また新たな課題が出てくる試行錯誤の日々。技術面だけでなく、「そもそも炭焼きとは何ぞや」という根本的な問いまで、みなで議論を交えた。「大変だったけど、ああでもないこうでもないって、すごく楽しくもあったなあ」

現在は、ほとんど炭焼きの現場に加わる機会がない。「事務局長なんていう雑用の多い仕事になっちゃって。時間さえ許せば、今だって炭焼きしたいですよ」

都筑里山倶楽部の炭焼きの専門的で詳細なプロセスはhttp://home.m00.itscom.net/gokichi/Sumiyaki/Sumiyaki.html

 北村事務局長 Profile
北村 博 きたむらひろし
横浜市都筑区生まれ。広大な農地や山が今のニュータウンに変わってゆく様子をつぶさに見ながら育った。故郷が失ったかつての姿への愛着が人一倍深い。現在、NPO法人都筑里山倶楽部事務局長。
 
炭焼きの写真
16
・17
永田式 排出された煙の臭いを袋状の金網に詰めた炭に吸着させたあと、噴霧器で地面に叩き落とす
18  改良永田式 煙の排出口に農業用寒冷沙をフィルターとして被せ、煙突をさらに竹やぶまで伸ばした
19  大失敗!前夜の窯閉めが甘く、密閉が不完全だったため、窯を開けたら熱い炭が燃え出してしまった失敗例。試行錯誤が続いた
 20 実験窯 燃焼室と窯が分離でき、中を観察しながら最適な窯内随所の温度を調査できる。ほどんどNASA?


窯の傍で生まれるもの

今の炭焼き部会のメンバーの多くは、のちに参加した第2、第3世代だ。炭焼きに参加したきっかけを尋ねてみると、「うちはこの近所でね、通りがかるたびに、なぁんか汚いカッコした奴らが集まってるなあって眺めてたんだけど、今は自分もこーんな汚いカッコで楽しんでる」「たまたま区の広報で見て」など理由はいろいろ。部会にの結びつきはとてもゆるやかで、入るのも出るのも自由。所属せずに体験だけしても、もちろんかまわない。エブリバディ、オールウェイズウェルカムだ。

「いろんなバックボーンの人が集まっているように見えるけど、窯を焚くとか、薪を割るとか、そういうことに懐かしさを感じる世代がやっぱり中心」と言うけれど、この日、散歩中の30代の若い夫婦が関心を持ち、夜には小学生と中学生の子どもを連れて、もう一度、見学にやってきた。幼い子を迎え、場は一気に華やいだ。

技術的に一定の完成を見た都筑里山倶楽部の炭焼きだが、こうして新メンバーも随時加わり続け、新たな展開も生まれている。たとえば間伐した竹での竹時計の制作だ。文字盤には吾唯知足の文字。人生経験を積み、足るを知ることを覚えながらも、心は静かに熱い彼らを、羨望と敬意を込め、あえて昭和おやじと呼ばせてもらう。

炭は焼の不思議を巧みに利用した産物だ。熱によって物質は新たなものに生まれ変わる。800度超の窯の中では炭が生まれ、その傍らでは熱い昭和おやじたちが、ワハハワハハと笑いながら、肩肘はらず、かつユニークに、自らも純化をとげている。

 竹炭の商品名は

 港北新炭(ニュータン)1袋(180g)200円

 竹酢液(静置濾過)200円、同(蒸留)500円

 竹時計・竹炭セット500円

 竹炭・竹酢液・竹時計1000円

NPO法人都筑里山倶楽部 えぬぴーおほうじん つづきさとやまくらぶ
(住所)都筑区都筑区茅ヶ崎中央57‐8
(tel)045‐941‐0987(月曜休み)

(炭焼き体験) 各月3回を1クールとして実施。参加費用は1クール1000円(炭焼き日のお弁当を含む)

その他、農作業、里山保全、自然観察、ネイチャークラフト作りなど多彩な体験メニューを実施。

詳細はコチラhttp://www1.tmtv.ne.jp/~satoyama/

都筑中央公園 つづきちゅうおうこうえん
(アクセス) 横浜市営地下鉄センター南駅から徒歩5分。
(駐車場)有料55台(30分100円) 入庫5〜22時迄営業(出庫24時間可)

(2013年2月16・18・23日/singbooboo)

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