都筑区荏田東2丁目にある「図研」本社と、中央研究所(右)を訪問してきた。図研は、ここ以外に、近辺だけでも、センター南、新横浜に自社ビルを持っている。図研本体の従業員は、全部で600名ほどだが、関連会社が入所しているので、この規模のビルが必要だ。

レポーター4名は、「ビルは知っているけれど、何をしている会社かよくわからないわね」と、心細さを抱えながらの訪問になってしまった。レポーターとしてはある意味で失格であり、図研さんに失礼だ。

担当の藤原さんに、このことを正直に話すと、「一般の人に知られていない会社だから仕方ありませんよ。株主やリクルーターのために、もっと宣伝が必要かもしれませんね」と、笑顔で応えてくださった。

この笑顔に甘えて、特に専門のCADについて、無知な質問を重ねたが、丁寧に答えてくださった。結局、昼食を挟んで3時間以上、お邪魔して楽しい時間を過ごした。





地上6階、地下2階のビルそのものが、「お宝」といえる。このオフィスの研究員・社員は約320名にすぎない。いかに、贅沢に作られているか、おわかりだろう。竣工は1990年だが、翌1991年に「日経ニューオフィス推進賞」、1992年に「横浜まちなみ景観賞」と、立て続けに大きな賞をもらった。受賞が納得できるビルだ。

建築デザインは、竹山聖という新進気鋭の建築家。吊り橋の原理で、建物の両側から吊る工法を使っている。橋のような鉄骨パイプ(右上)がむき出しになっているのは、そのためだ。柱を使っていないこともあり、広々としたロビー(左)は、ますます広く見える。

ビルに隣接して、横浜市の緑道「ささぶねのみち」(右)がある。緑道の木々とビルとの一体感は、まちなみ景観賞に相応しいと思う。

社員食堂(左)は、昼休みの場として最適だ。壁には一級品の絵。庭には石の彫刻が3つ。庭が「ささぶねのみち」に続いているので、緑に奥行きが感じられる。

テーブルもユニークだ。ひとつのテーブルは、ジグソーパズルの一片になっている。組み合わせて、大きなテーブルにすることもできる。私達は、この食堂で定食をご馳走になったが、天然木のぬくもりと四角四面でないテーブルを前にすると、柔軟なアイディアが生まれそうな気がした。残念ながら、一般には開放していない。




図研を初めて訪れた人は、美術館に紛れ込んでしまったかと錯覚するだろう。建物の内外に、7つもの彫刻が置いてあるからだ。すべて、彫刻家・関根伸夫氏の作品である。7つ全部を紹介するスペースがないので、3点を紹介するが、7つとも「お宝」だ。

玄関に入る手前の広場にある。ブロンズ鋳造の「風景の指輪」。外部を円で切り取ってみると面白い。 道路から入ると右手にある。黒御影石の「豊穣の手」。水が流れて、涼しげである。 建物内部にある「水のピラミッド」。ステンレスのフレームから水が噴射されると、水滴でピラミッドができる。幻想的なシーンを醸し出す。





図研は、1976年に図形処理技術研究所を設立したのに始まる。そして1978年には、国産初の本格的CAD/CAMシステムをプリント基板設計用に開発した。電機用CADでは、図研と競合する会社はないという。それだけ抜群の技術力を持っていることになる。この技術力は、最大の「お宝」ではなかろうか。こういう会社が都筑区にあるだけでも嬉しい。

CADは、Computer Aided Designの略。CAMは、Computer Aided Manufacturingの略。CAMはCADによって作成されたデータを基に実際の製品を製造するシステム。大ざっぱに言うと、同じようなものだと、理解していい。

これだけでは、私たち素人には何のことか分からないが、図研のCADを使っている製品は、誰もが持っているものばかりだ。たとえば、液晶テレビ、プラズマテレビ、ラジカセ、ケータイ、ビデオ、デジカメ、DVDなど、デジタル家電と呼ばれる製品のほとんどに、図研のCADが使われている。

CADが出来る前と後では、モノ作りの工程にどんな違いがあるか。株主向けに作った小冊子のイラストを、お借りしたのが下の図である。





1960年代までは、製品の設計はすべて手作業だった。ミスがあれば消しゴムで直し、下書きが出来ると墨入れ。設計図が完成しても、配線が切れている、余計なデータが入っているなどでやり直し。試作にこぎ着けるも、コスト面であわなければ、製造中止ということもあった。

CADを使うと、どうなるか。上のイラストにあるように、拡大・縮小自由自在。レイヤ機能で複雑な機能がスッキリする、自動的にミスを修正する、データの再利用もOKだ。もちろん編集も簡単である。最近では、部品の使用材料などの情報管理機能も組み込んでいる。これにより、2006年から禁止される鉛、カドミウム、水銀が使われているか否かもわかる。

図研の仕事は、優れたソフトウェアを提供するばかりでなく、コンサルティング業もこなしている。各電機メーカーの開発者の要望に応えて、使いやすいCADシステムを作る。メーカーに出向いて、コンサルタントとして、協同作業を行う場合も多い。

製品開発の現場では、デジタル化、小型化、高密度化が、かつてないスピードで進んでいる。消費者のニーズも多様化しているので、多品種少量生産が求められている。もしCADシステムがなければ、これほど多品種のモノ作りはできない。出来たとしても、時間がかかりすぎて、そのコストは製品の値段に跳ね返ってくる。

CADは、多品種少量生産のニーズにぴったりのシステムといえる。電化製品は、相対的に値段が安いように思うが、その陰には、こうした技術者の努力があったのだ。図研は、華やかな製品に隠れた黒子の存在かもしれない。今まで何気なく手にしている製品に、図研のCADが使われていることを知っただけでも、今回の訪問の意義は大きかった。




本社全景写真で、赤茶色の丸いビルは、多目的ホールである。内部(左)は天井が高く、音響も良さそうだ。区の公会堂が出来る前は、区民に貸していた。最近は、社内研修やお客様向けセミナーに使う機会が増えているので、貸し出しはしていないという。

「地域住民のために、時々でいいですから貸してくださいませんか」と、図々しいお願いを、藤原さんにぶつけてみた。「絶対、貸さないという決まりはありませんから・・」と、嬉しい答えが返ってきた。

レポーター全員がいたく気に入ったのは、ホール屋上にある屋上シアター(右上)だ。ホールの緑天井の上が、右写真の青い出っ張りになっている。コンクリート打ちっ放しの観客席は、ローマの円形劇場のようだ。私達が勝手に「ローマ劇場」と名付けたこの施設は、一度も使ったことがないという。もったいない。星空コンサートを開いたら、どんなにか素晴らしいだろう。
(2005年8月訪問 HARUKO記)

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