横浜・神奈川区にある「サカタのタネ」の「ガーデンセンター横浜」を午前10時から見学。引き続き、都筑区仲町台2丁目の本社に移動して、午後2時過ぎまでお邪魔してきた。

レポーターは男性2名、女性2名。広報宣伝部の藤巻さんと佐川さんは、長時間にわたる取材に、ていねいに応対してくださった。

長年、タネに関わってきた藤巻さんの話は、目からウロコ的な面白さがあり、つい身を乗り出してしまった。メンデルの法則とピーターコーンの話、市場での商品売り込みエピソードなど、ページ数の関係でここに書けないのが残念である。




「サカタのタネ」は、1913(大正2)年に、故坂田武雄氏が横浜の六角橋に作った「坂田農園」に始まる。欧米を視察した後に会社を創業した坂田氏は、まず苗木の輸出入をはじめた。しかし、第一次世界大戦で輸出入業務がむずかしくなり、種苗業へ転換。現在は、花と野菜の研究開発が主業務である。

都筑区に本社を移転したのは、11年前の1995年。花と緑の街作りを進めている区と、会社の企業理念が一致したことによる。本社(下)は、木と花に囲まれて、まるで公園のような所に建っている。


緑ある街を目指している区に、花と野菜の専門家が越してきたのだから、これほど心強いことはない。「サカタのタネ」の会社そのものが、区民にとって、大きな「お宝」だ。




一粒のタネから美しい花が咲き、美味しい野菜が収穫できる。しかし、タネが悪ければ、きれいな花は咲かないし、野菜もいいものが出来ない。品質の良いタネは、そう簡単に作れるものではないのだ。

研究拠点は、掛川やアメリカなど、国内外にいくつかある。優れた品種を生み出すための努力や情熱を聞き、「タネなんか放っておいても出来る」と思っていた自分の無知が、恥ずかしくなった。

家庭菜園で豆を作ったとして、収穫時期を逸すると、青い豆は茶色のタネになる。市販のタネも、これが大規模になったものと思いこんでいたのだ。

現在市販されているほとんどのタネは、F1(First Filial Generationの略・雑種第一代)と言って、両親の優れた性質を組み合わせた交配種である。父(花粉)と母(胚珠)の性質を分析して、良い性質を持つものを、交配する。こうして出来た世界でただひとつのタネF1は、過去、金(きん)の値段より高く取引されたこともあった。ちなみに、サカタのタネは、遺伝子組み換えは行っていない。

交配種F1は、良いことずくめだ。@成長の早さが同じなので、収穫時期も同じになる。計画生産がしやすい。 A形や大きさが一定の作物が出来るので、箱詰めなどの作業効率が良い。 B味も一定しているので、消費者からのクレームが少ない。 C病気に強い性質を入れることで、農薬を減らすことができる。

F1種子の生産は、世界約20ヶ国の農家や協力会社に委託している。北半球と南半球のいろいろな地域に託すことで、洪水や異常気象などにより、タネがとれないというリスクを回避できるからだ。




最近でこそ、バイオテクノロジーの発達で、品種の開発にかかる時間が大幅に縮小されたが、一粒のF1種子の開発には、以前は10年もかかった。しかし、そのすべてがヒット商品になるわけではない。100種類出しても、10年後に残っているのは、数種にすぎない。タネの世界も、シビアな競争の世界にさらされているのだ。

競争に勝ち抜いたタネはなんだろう。「ヒット商品はなんですか」と、質問した。「花では、『3P』とよばれるペチュニア、パンジー、プリムラです。トルコギキョウも、ヨーロッパ市場の約9割を占めています。野菜では、プリンスメロンアンデスメロンキャベツブロッコリーなど。特にアンデスメロンは、ロングセラーで、会社への貢献度が高いんですよ」と、藤巻さんは楽しそうに答えてくれた。

だれもが知っているプリンスメロンもアンデスメロンも、この会社のオリジナル品種だったのだ。

このパンジーは「LRアリル シリーズ」。秋から春の長い間楽しめ、冬にも彩りを添えるので好評だ。 このトルコギキョウは、バラ咲き「ロジーナ ブルー」バラでは実現がむずかしい「青いバラ」をトルコギキョウで表現した。 1977年に発売以来、ロングセラーのアンデスメロン。マスクメロンに負けない味。3枚の写真は、サカタのタネ提供。

アンデスメロンのネーミングの由来を聞いて、思わず「へえ〜そうなんですか!」と大声を出してしまった。「当たりはずれがなく安心して買えることから、食べてあんしんです。意外に思われるでしょうが、『安心です』からとった名前です。テレビの『トリビアの泉』でも出題されたんですよ」。アンデス地方原産のメロンだとばかり思っていた。




「都筑区にはマンションに住んでいる人も大勢います。ベランダでも簡単に作れる野菜を教えてください」「なんでも出来ますけど、コマツナはタネからでも、暖かい時期なら25日で収穫できます。二十日ダイコンは、文字通り20日で、穫れますよ」。

サカタのタネオリジナルのコマツナだけでも、浜美2号・わかみ・みすぎ・きよすみ・なかまちと、何種類もある。このなかで、「なかまち」という品種(左写真はサカタのタネ提供)は、本社が仲町台にあることからの命名だという。この命名にも「そうなんですか!」を発してしまった。

残念ながら、スーパーマーケットや八百屋の店先では、コマツナの品種名までは書いてない。「なかまち」の説明には、「葉柄は太く、スジも少なく、やわらかく食べごたえがあります」とあり、美味しそうだ。

このコマツナを食べたい方は、タネを蒔くのがいちばんだ。地元の名前がついたタネが、美味しいコマツナに25日で変身する。成長の過程を観察するだけでも楽しい。






横浜駅から東横線で一つ目の「反町駅」近くに、直営のガーデンセンター(左)がある。タネはもちろん、苗や園芸用品を豊富に揃えている。私たちが訪れたのは、開店直後だったが、昨今のガーデニングや家庭菜園ブームのせいだろうか、たくさんの客が来ていた。なお、ガーデンセンター横浜は水曜日が定休。

ここでもほとんどのタネや苗は揃うが、カタログでの通信販売や、インターネットのオンラインショッピングでも買うことが出来る。





横浜市の開港祭や市のスポーツ大会には、花のタネを提供している。サッカー・横浜F・マリノスの公式スポンサーでもある。

「区民への関わりを考えていますか」の質問に、藤巻さんは「講演依頼があれば、講師の派遣(サカタのタネOB・OG)も可能です。育て方だけでなく、『野菜は文化』といった話も面白いですよ」。

佐川さんからは、「エントランス付近の花壇や温室(左)は、自由に見学できます。気軽に立ち寄ってください」の答えが返ってきた。温室開館は、原則平日の9時から午後4時まで(1・2・7・8月を除く)。

「野菜作りにも関心が集まっています。花だけでなく野菜の育て方の講習会も、ぜひ開いてくださいね」と頼んできた。
(2006年5月訪問 HARUKO記)


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