都筑区佐江戸町600番地にあるパナソニック補聴器株式会社を訪問してきた。 

7年も前のことだが、同じ佐江戸町にあるパナソニックモバイルコミュニケーションズ(PMC)には、28回の企業訪問でお世話になった。携帯電話端末の企画・製造・販売をしている会社である。

PMCは緑産業道路をはさみ南側にあるが、今回訪問したパナソニック補聴器は道路北側のN3棟のビル(左)に入っている。北側だけでもパナソニックと名のつく会社がたくさんあり、総合受付がなければとてもたどり着けない。


補聴器の会社がここにあることを知らなかったが、交流ステーション愛読者の方から「どんな会社か知りたい」と取材依頼があった。企画グループ 研修チームのチームリーダー光野之雄さんが快諾してくださり、数日後には会えることになった。

光野さんは、「補聴器の仕事が大好きなんです」と目を輝かせながら話す。そんな語りに魅了されて2時間半ものインタビューになった。


お袋のために補聴器を作ってくれ!


パナソニックが最初に補聴器を作ったのは、55年前だ。松下幸之助が、パナソニックの前身である松下電器産業を創業したのは1918年。その松下電器から産業用電子機器部門が分かれて、1958年に松下通信工業が設立された。

松下通信工業設立と同時に、「聞こえづらくなったお袋のために補聴器を作ってくれ!」という松下幸之助社長の一声があった。音響機器の先進エレクトロニクスの研究が、補聴器の技術にも活かされた。こうして生まれたのが、補聴器第1号「CB-801ポケット型」(左)である。1号の完成が1959年。それ以来55年になる。

1992年には、松下通信工業の補聴器専門販売会社が独立。1997年にパナソニック補聴器に社名変更して、今にいたる。


ちなみに、日本での補聴器1号はパナソニック製ではない。小林理研製作所(今のリオン)が、1948年に国産1号を作った。今では、日本だけでも10数社が手掛けている。

世界の補聴器の歴史はもっとさかのぼる。100年ほど前から補聴器が量産されるようになった。世界のBIG6は、ドイツのシーメンス、デンマークのGNリサウンド・ワイデックス・オーティコン、スイスのフォナック、アメリカのスターキーの6社である。


 74歳以上の43.7%以上が難聴


「日本で補聴器を使っている人はどのぐらいいるのですか?メガネと違って、見ただけでは補聴器を使っているかどうかわからないので、見当もつきません」と聞いてみた。

「大雑把な数字ですが、日本人の難聴は約2000万人。そのうち約1000万人は、自分が難聴であることを気づいていないんです。気づいた方でも補聴器を使わない人が多く、常時使っているのは300万人強に過ぎません。難聴者の6人に1人しか使ってないことになります。この数字は、補聴器の業界団体の統計に基づいています」

「耳が不自由な人が増え、しかも自覚していないのは、大問題ですね。コミュニケーションが不足して、トラブルのもとにもなります。そういえば、耳が聞こえないから外に出なくなった、人と会うのが嫌だという方が増えているように思います。生活スタイルにも影響しかねません。今まさに高齢者社会に入っているわけですが、難聴率は年齢と共に上がっていくものなんですか」

「年齢とともに上がります。40歳前後から増え始め、74歳以上では43.7%もの方が難聴と言われています」

下のグラフは「補聴器工業会」が中心になって調査した2012年の結果。いわゆる後期高齢者になると、急に増える事がわかる。


 デジタル補聴器の登場


「補聴器を使いたがらないのは、使いづらいからではないでしょうか。”わずらわしい””耳鳴りがする””騒音がひどい所では役立たない”などの不満を聞いたことがあります。補聴器の会社の方に申し上げるのは失礼ですが、みなさん満足していますか」

「補聴器がアナログからデジタルに変わった20年前頃から、使いやすくなりました。カウンセリングで生活スタイルをじっくりと伺い、その方にあわせた機種を選びます。半年ぐらいかけて、違和感を感じないように調整していきます。メンテナンスもひんぱんにしているので、満足度は高くなっていますよ」

「アナログとデジタルの違いは、カメラの銀塩とデジタルの違いと同じようなものですか」

「その通りです。デジタル補聴器は、マイクが拾った音をDSP(デジタルシグナルプロセッサ)で処理しています。だから、雑音と会話を区別したり、自動的に音量を調節したり、小さい音を強調したり、送風機などの雑音を抑えたり、衝撃的な音を抑制できます。横や後にいる人ではなく、正面の話し手の声をはっきりさせる指向性にも優れています」

光野さんは、小さな補聴器を手にしながら、「ここにDSPが入っているんです」など、ていねいに説明してくれる。小さいところに、たくさんの調整機能が詰め込まれていることに、感動してしまった。

パナソニックで扱っている補聴器は、下の写真にあるように、耳あなタイプ・耳かけタイプ(RIC)・耳かけタイプ・ポケットタイプの4種類。


耳あなタイプ  耳かけタイプ(RIC)   耳かけタイプ ポケットタイプ 
       
   


以前は耳あなタイプが主流だったが、今はレシーバーを補聴器本体から独立させて耳にいれる耳かけタイプ(RIC)が主流である。RICはReceiver In Canal の略。

以前の主流・耳あなタイプは、ひとりひとりの耳の形にあわせて手作りするので、今でも愛好者がいる。パナソニックには、耳あな型補聴器で「ものづくり大賞」を受賞した名工もいる。


 50歳過ぎたら補聴器を使う


「入社以来、補聴器一筋ですか」

「私は祖父母と生活していて、難聴について若い頃から興味があったので、この会社に入りました。だから毎日が楽しくて仕方ありません。この仕事は、聴覚生理学という医学の分野、音響学という工学の分野、カウンセリングの分野と幅広いんです。お客様と二人三脚で補聴器を選び、満足していただける。こんなにやりがいのある仕事はありません」

光野さん(左)は、認定補聴器技能者の肩書きも持っている。試験は難しくて、資格を取るのに5年もかかる。

いちばん驚いたのは「私は38歳ですが、50歳を過ぎたら補聴器を使おうと思っています」という一言だった。

「え!そんなに早くつけるんですか」

「聴力は40歳前後から弱まると言われています。補聴器を使い始めるのは年齢が若いほど、効果があるんです。難聴になって時間が経つと、音の刺激に対して脳が鈍感になります。したがって言葉を聴き分ける力が低下してしまいます」

難聴だと気づかない人がたくさんいる。気づいても「補聴器なんて」と先延ばしにしている人がたくさんいる。そのうちに聞こえの低下が進んでいる人がたくさんいる。今回の訪問で、こういう事実を知った。

別れ際に「私はこういう仕事をしているので他の人の聴力にも敏感なのですが、○○さんは今のところ大丈夫ですよ」と、光野さんからお墨付きをもらった。2時間以上話していてのことだから、まだ安心していても良さそうだ。でも「若ければ若いほど効果がある」と聞いたので、少しでも異変を感じたら、まず耳鼻科で検査を受けてみようと強く思った。

「高齢者が4分の1以上を占めるのは間近、ますます需要は増えますね。これからも良い補聴器を作ってくださいね。お年寄りが喜べば、社会が明るくなりますもの」とエールを送って、パナソニック補聴器を後にした。

                       (2014年12月訪問 HARUKO記)
地域の企業・施設訪問のトップページへ
つづき交流ステーションのトップページへ
ご意見や感想をお寄せ下さい