都筑区東方町にある「美濃屋あられ」(左)を2人で訪問してきた。真夏の暑い日だったが、雑木林や畑に囲まれている敷地には、爽やかな風が通り抜けた。都筑区の中心部より気温が低いように感じる。 代表取締役の小森秀一さん自ら、1時間以上にわたる工場案内とインタビューに対応してくださった。 「わが社のことを、煎餅屋と言う人もいますが、煎餅は作っていないんです。煎餅とあられは違うんです」など、思ってもみなかった話をたくさん耳にし、充実した2時間半を過ごすことができた。
「美濃屋あられ」は、今年3月に創業60年を迎えた。1957年創業当時の会社は鶴見区にあった。今の東方町に移転したのは1968年。2006年には近くの池辺町に第2工場も作り、都筑に根付いている。 「僕はこの地に移転した翌年に生まれたんですよ。だから東方には、愛着があります」と48歳の小森社長(左)は語る。 「都筑に移転したのはなぜですか」 「会社は鶴見区の矢向駅前にありました。当時は、駅の線路に天日干しをしたという長閑な話も聞いています。でも敷地が狭かったうえに、宅地化が進み近隣から苦情が出始めたそうです。そこで先代がここを探しました。緑豊かな環境の割には第三京浜にも近く、物流に好都合ということもありました」 「先代であるお父さまは、今もお元気で会長をしていますね」 「でも仕事にはほとんど口出しをせず任せてくれます。清掃が趣味みたいなもので、工場のまわりの草取りをしていますよ(笑)」 「従業員は何名ですか」 「パートの方を含め43名です。先々代が始めた会社ということもあって、43名のうち親戚は10名もいますが、みな仲良くやっていますよ」
「美濃屋あられの名前の由来を聞かせてください。岐阜県の美濃出身でしょうか。横浜の中区に、似た名前の『美濃屋あられ製造本舗』がありますね。親戚ですか」 「まず美濃屋の由来ですが、先々代つまり祖父が岐阜の美濃出身ということで付けられました。話せば長くなりますが、祖父は4人兄弟の4男。長男は名古屋で八百屋を開業、2男と3男が横浜のあられ屋に奉公、4男は岐阜で仕事をしていました」 「2男と3男が独立してあられ屋を始めたのが大正10年。祖父も横浜に出て、兄たちの店で営業をしていました。当時としては珍しく車の運転ができたので、営業にはうってつけでした」 左は兄弟が横浜の黄金町で創業した美濃屋10周年の記念写真。大きい写真の一部だけを掲載させてもらった。 「いつ撮ったのかはっきりしないのですが、前列右から4番目にいるのが祖父。この時は結婚していませんが、祖父の上に写っているのが祖母です」 「この写真を見ると、3兄弟でずいぶん大々的にやっていらしたことが分かります。店構えも立派です」 「商売は順調に伸びていましたが、そんなとき第二次世界大戦が始まりました。米は配給になり、自由に買えなくなったのです。菓子に米を使うなど贅沢だ!と言われたそうです。原料の米がなければ、あられは作れません。廃業せざるをえませんでした」 「戦後しばらく経ってから、兄弟が別々の形で会社を興しました。4男の祖父が鶴見の矢向に開いた時が、わが社の創業ということになります」 「中区にある『美濃屋あられ製造本舗』は、2男の系列です。同業者ではありますが、今は別の道を進んでいます」
「米を原料にしている菓子を米菓と言いますね。煎餅とあられの違いはなんですか」 「簡単に言うと、煎餅はうるち米、あられやおかきは糯米(もちごめ)が原料です。わが社は煎餅は作ってないので、原料はすべて糯米で、秋田県の大潟村産です。煎餅とあられは原料が違うだけでなく、作り方も違うんですよ」 早速、製造の現場へ。工場に入る前には手洗いやキャップを被ることはもちろん、清浄機から出る気体を全身に浴びる。衛生にはとても気をつかっている。 洗米から出来上がるまでに約1週間。作業の丁寧さとこだわりには、心底驚いた。たとえば餅の生地も暑い時は汗をかき、寒い時は凍る。そいう微妙な違いにもベテラン職人は気をつかっている。一般的な工程は次のようになっている。 洗米(大きなタンクで洗う)→浸漬(たっぷり水分を含ませる)→脱水(浸した水を抜く)→蒸練(蒸気で一気に蒸かす)→製餅(練器で餅に仕上げる)→金属探知機検査(金属など異物が混入していないか調査)→型充填(丸型の形成器に流し込む)→冷蔵(2度〜5度の冷蔵室で冷やす)→裁断(長さ・幅・厚さなど製品ごとに裁断)→一次乾燥(乾燥後生地を寝かせる)→二次乾燥(しっかり乾燥させることが味の決め手)→選別(乾燥不足・外観・異物混入しているものを選別)→焼成(生地によって焼成時間は違うが、同じ製品でも夏と冬では火力や時間を変える)→味付け(しょうゆ味・サラダ味・甘辛味)→仕上げ乾燥(味付け後の乾燥は特に気をつかう)→選別(壊れや焼むらがあるものを選別)→出来上がり(出来上がったものを48〜60時間寝かす)
話のついでに、煎餅の作り方も聞いてみた。 「うるち米を蒸かした後に、伸します。それを型抜きして乾燥させ、焼いたり揚げたりします。通常は1〜2日で出来上がります」と小森さん。 訪問するまでは、煎餅とあられに大きな違いがあるなど想像すらしなかった。原料の違いはもとより、1週間かかるあられやおかき、1〜2日で出来上がる煎餅。身近にある食品だけに、驚きも大きかった。
美濃屋あられの製品は、全国や神奈川県で何度も表彰されている。下の写真は最近の受賞。
○ 1984年 「サラダ黒松」が全国菓子大博覧会で総裁賞受賞 ○ 1998年 「かたらい」が全国菓子博覧会で農林水産大臣賞受賞 ○ 2002年 「丹尺(たんじゃく)」が全国菓子大博覧会で農林水産大臣賞受賞 ○ 2005年 「かたらい」が神奈川県銘菓展で優秀賞受賞 ○ 2005年 神奈川県指定銘菓に指定される ○ 2013年 「甘辛小角(あまからしょうかく)」が全国菓子大博覧会で農林水産大臣賞受賞 ○ 2014年 「横濱波止場」が神奈川県菓子コンクールで最優秀賞受賞 「受賞している商品は、すべて美味しいと思いますが、消費者にいちばん人気があるのはなんですか」
「サラダ味の丹尺(左)です。油が酸化すると味が落ちるのですが、酸化しない油を使うようになって、美味しさが長持ちするようになりました。天然塩をベースにサラダ味に仕上げています。ざくっとした歯触りがたまらないと、好評です」 「次は甘辛小角ですね。醤油をベースに独自の蜜をかけ、ザラメをふりかけています。丹尺と甘辛小角を交互に口に入れて楽しんでいる方もいるようですよ」
本社の隣にある直営店は、平日の朝9時から午後5時まで開いている。すべての商品が揃っているのはもちろん、壊れあられや壊れおかきをお買い得で買うことができる。取材の日も「お使い物にしたいので」で10箱も注文する人や美濃屋あられファンが、ひっきりなしに訪れていた。 「この直営店以外ではどこで買えますか」 「いちばんたくさん置いてもらっているのは成城石井です。イトー・ヨーカドーやイオンも扱いが多いです。問屋を通して他にもいろいろな所で置いていただいてます」 「成城石井は高級スーパーですね。本物の味が分かる方に支持されているということですね。世の中には洋風の菓子もたくさんありますが、米菓はどこの国にもない日本独特のものだと思います。伝統の味を守りつつ、さらに美味しいあられやおかきを生み出してくださいね」 交流ステーションで企業訪問を始めた頃から「美濃屋あられ」の名前は聞いていた。でも訪問の機を失していたが、今回やっと実現した。訪問したことで、社長や職人たちが愛情をこめて「本物の味」を追及していることを肌で感じた。工場見学の時も、手は動かしながらも「こんにちは」と、みなさんが笑顔であいさつしてくれた。熟練の職人が若い職人に技を伝授することもあるという。そんな温かい職場の雰囲気も伝わってきた。 都筑区には、実際にモノ作りをしている企業はそう多くない。美濃屋あられは、そう多くない企業のひとつだ。美濃屋が創業60周年を迎えてますます発展していくことを祈りつつ、訪問を終えた。 (2017年7月訪問 HARUKO記) |