都筑区に隣接している青葉区の昭和大学藤が丘病院(左)を訪問してきた。 同じ系列の 北部病院で、1年前にブラックジャックセミナーを取材している。同じブラックジャックセミナーが藤が丘病院で開催されることを田中淳一教授から伺い、訪問することにした。 田中教授は、2013年に北部病院の消化器センターから、藤が丘病院の消化器・一般外科に異動した。新しい病院に赴任してから1年にも満たないが、すでに田中イズムが浸透しているようだ。 田中イズムの「ミッション(使命)を、パッション(熱意)を持って、ハイテンション(楽しく)で達成しよう」は、まるで語呂合わせのようだが、全身から熱意がほとばしり、それでいていつもニコニコと楽しそうな田中先生のお人柄そのものだ。
去年のセミナー参加者のほとんどは中学生だったが、今年は小学校5〜6年生が対象。青葉区内の小学校すべてに声をかけ、そのうち10校から44名が参加した。 まず真田病院長(左)が「小学生を前に話したことがないので、分かってもらえるかどうか心配ですが」と言いながら、開会の挨拶。 「私が若いころは、手術といえばお腹などを切るしかなかったんですよ。でも今はほとんどは、テレビカメラを入れた内視鏡手術しています。医学の進歩はすごいんです。だから皆さんが大人になるころは、内視鏡手術も無くなっているかもしれません。でも、どんなに医学が進歩しても、患者さんに接する気持ちは同じだと思っています。今日は医学の体験を楽しんでください」
次は管理課の沼尻事務部長(左)が、病院の概要を説明。 「この病院は昭和50(1975)年に、地域の中心になる病院として開設しました。患者を診るだけでなく、学生も育てているんですよ。たくさんの診療科目のほかに、救命救急センター、集中治療センター、脳卒中ケアユニット、救急・集中治療室病棟もあります」 「1日平均1300人の外来患者があります。そのうち110人ぐらいが、初めてこの病院を受診する人です。ベッド数は567ですが、そのうち90%のベッドがいっぱいです。入院期間は、平均11日間。毎日20名ぐらいを手術していますが、今の手術は身体への負担が少ないので、入院期間が短いんです」
次に、セミナーのコースディレクターDr.Jこと田中先生が、医師という仕事、外科医の仕事について話した。 「外科は、手術的な方法で病気や怪我を治すのが仕事です。病院長もお話しましたが、以前はメスでお腹を切る方法でした。でも今はほとんどの手術は、お腹を切りません。お腹に小さな穴を開けて、超音波メスや鉗子を入れて、内視鏡のモニターテレビを見ながら悪い腫瘍を取り除くんです。こういう手術を腹腔鏡手術と言います」 「今日は、医者が使っている器具と同じものを、みなさんにも使ってもらいます。僕らが小さいときは、こんな体験は出来ませんでした。みなさんは恵まれていますよ。この中から外科医や医療の仕事を目指す人が出れば、大変嬉しいです」
ブラックジャックセミナーは、ジョンソン・エンド・ジョンソン(株)と全国の病院との共催で実施している。2005年にキッズセミナーとして始まったが、2011年からブラックジャックセミナーと名前を変えて、100回以上実施している。ちなみに、藤が丘病院では1回目。 セミナーの手伝いをしているジョンソン・エンド・ジョンソンの社員に聞いてみた。 「参加した小中学生で医者になった人はいますか」 「セミナーに参加した小中学生のうち、約30名が医学部に進学しています」 「今日も16名がスタッフとして手伝っているそうですね。神奈川県だけで、年に10回以上と聞いています。大変な労力だと思いますが」 「ジョンソン・エンド・ジョンソンの本社はアメリカですが、もともと社会貢献の必要性を社員に教育しています。わが社の製品は、一般の方には馴染みがありませんが、医療器具(左)のシェアは、全体の半分ぐらいを占めています。ご恩返しの意味もあります」 3万円ぐらいの器具はざらにある。超音波メスなどは5〜8万円もする。こんなに高価なのに、ほとんどは1回の手術ごとに破棄してしまう。「もったいないですね」と思わず溜息が出るが「二次感染を防ぐためなんです」と言われると、うなずく他ない。 ブラックジャックは、手塚治虫の医療マンガ(左)の主人公の名前である。天才的な手術の腕前を身につけている外科医だ。手術の腕前を維持し続けるという医療に対するひたむきな姿勢を持っている。「医者の仕事とは何か」、「生命の尊さとは何か」、「お金より大事なものは何か」を常に問うている。 こういうブラックジャックの姿勢に共感したので、手塚治虫プロダクションと協力して、ブラックジャックセミナーと名付けた。マンガの主人公をセミナーの名前にしたことで、子ども達がより親しみやすくなった。
ジョンソン・エンド・ジョンソンのスタッフは16名だが、スケジュールをスムーズにこなすには、専門職以外に進行役や案内役も必要だ。「病院ではどんな方が何名ぐらい、このセミナーに協力していますか」と事務職の女性に聞いてみた。 「医師は18名(消化器外科が12名、消化器内科が5名、麻酔科が1名)です。看護師は6名、事務職は19名です」とスラスラ答えが返ってきた。職員の配置などを綿密に準備したからこそ、人数を把握しているのだろうなと感心してしまった。 セミナー参加の小学生44名に対し、大人が60名以上も関わっている。こんなに恵まれたセミナーはめったにない。 先生方もサービス精神にあふれている。実際のオペ室で指導にあたった消化器外科のドクター(左)も、オペ室の雰囲気をやわらげようとカツラをかぶり、小学生にからかわれていた。
午後1時に受け付け開始、着替え、開会式、写真撮影の後、午後2時からいよいよ現場の体験だ。44名が7班に分かれたので、1グループが6〜7名。この人数だと、全員が体験できる。
2時間半にわたるブースの体験が終わったのは、午後4時半過ぎ。その後に終了式が待っていたが、子どもたちは、まったく疲れを見せない。コースディレクターのDr.J田中淳一先生から、ひとりひとり「未来の医師認定証」が渡された。ほかにも集合写真や聴診器やJ&Jの製品など、たくさんのお土産をもらい嬉しそうだった。 去年のブラックジャックセミナー参加者はは中学生が主だったが、今年は小学生。無邪気に先生方に質問する姿が印象に残った。ゲーム感覚で疑似体験をし、その感覚を残しつつ、本当の医療現場に赴く子ども達が増えて欲しいものだ。 病院長がおっしゃったように、どんなに医学が進歩しても、患者に接する優しい気持ちだけは持ち続けて欲しいなあと思うのだった。 (2014年1月訪問 HARUKO記) |