栗原さん中川小学校の和泉校長に紹介されて、「若竹会」会長の栗原泰光さん(55歳)を訪問した。「若竹会」は中川小PTA役員のOB会である。

取材依頼の電話をすると、「区長と校長の次ですか!若竹会の会長なんて、偉くもなんともありませんから、役不足ですよ。いいんですか」と、奥ゆかしいことをおっしゃる。

「役不足なんて、とんでもありません。いろいろな方に登場してもらいたいのでお願いします」と、こちらも必死である。

大棚町のお宅にお邪魔した。隣接している早渕公園の坂道を上りつめると、「資生堂リサーチセンター」と「いであ株式会社」のビルが目に飛び込んできた。両方とも、企業訪問をしたことがある。第3京浜道路の「都筑インター」にも近い。

にもかかわらず、自宅の庭と早渕公園の緑が一体になり、山奥にいるような錯覚を覚える。なんとも贅沢な空間だ。


  野菜作りは面白い

コマツナの畑栗原さんの本業は、農業である。 都市部の農家のほとんどがそうであるように、栗原さんも兼業農家。

不動産を管理するかたわら、コマツナ(左)・ほうれん草・ブロッコリーなどの露地野菜を、80歳の父と2人で作っている。でも、野菜作りをはじめたのは、そう古いことではない。

水処理プラントの営業をしていたサラリーマン時代は、帰宅が遅いうえに、ストレスもたまっていた。

そんな折も折、奥さんが病気で急死。ふたりの子どもは、小学1年生と幼稚園生だった。サラリーマンを続けていたら、子ども達の世話もできない。寝顔しか見られない生活はイヤなので、思い切って会社を辞めることにした。

こうして41歳の新米農業者がデビューした。「最初は、オヤジのやることの見よう見まねでしたね。ノート2ページに、4年間の日記を今も書いていますが、その日の出来事だけでなく、農作業の詳細も記録しました。この日に種まきをした、消毒をした・・などの情報は野菜作りの参考になります。オヤジは勘で分かりますが、私はこの日記が頼りなんですよ」と栗原さん。

「日記を見せてくださいませんか」と頼んだ。「殴り書きですから、お見せするようなものではありません」と1度は断られたが、ちらっと見せてくれた。殴り書きどころか、スケッチ入りの楽しい日記である。

4年間の日記 白菜の作り方 アスパラの作り方
4年間の日記。農作業の記録ばかりではなく、会った人の名前も記してある。 白菜の作り方のスケッチ アスパラの植え方のスケッチ

「大事に育てていれば収穫量が違うんですよ。子どもと同じで、手をかけすぎてもいけない、かけなくてももダメなんです。その加減がオヤジにはかないません。でも野菜作りは楽しくてたまりません。サラリーマンの頃とは雲泥の差です」と、栗原さんは実に幸せそうな笑顔で話す。


子育ても面白い

餅つき奥さんが亡くなったとき、自分に余裕がないと子どもを育てられないと思い、会社を辞めた。「真剣に子どもと向き合わねばと思いましたね。学校の父母会にも必ず出ました。当時は、父親の参加はひとりでしたよ。子どもと関わっていくうちに、子育ては野菜作りと同じように面白いことに気づいたんです」。

子育てが面白いという思いがPTAの役員に繋がり、子どもが卒業後も、「若竹会」で小学生と関わっていくことになる。

「若竹会」は中川小のPTAの本部役員をした人の集まりで、会員は約120人。年に1度の総会にはその半数が集まるほど盛況だ。栗原さんは、会長になってから5年目。

餅つき準備のスケッチ毎年秋に開かれる「中川っ子まつり」では、餅つき(左上)をしたり赤飯を炊いて、約1000人の子ども達にふるまっている。餅用に80キロ、赤飯用に40キロの餅米を準備するそうだ。1000人分を杵でつくのは大変なので、餅つき器も使っている。

餅つきの準備についても、4年間の日記帳にスケッチ(左)してあった。「蒸籠(せいろ)で米を蒸すやりかたは、若い人には分かりませんから、記録しておこうと思っているのです」と、なんでもないことのように話す。でも「子ども達を楽しませてやりたい」の気持ちがなければ、出来ることではない。

地域学習のコーディネイターもしている。「子ども達がキャベツ畑を見学したい」、「教員が浜梨を教材化したい」、「虫送りの行事について話してくれる人を紹介して欲しい」などの、学校の要望に対しても、快く応じて、適当な人を学校に紹介している。

日頃の付き合いが広くて、しかもお人柄によるところが大きいと思う。中川小学校の和泉校長は「いつも助けてもらっています。若竹会のように継続的に学校を支援してくれる組織は、そう多くないんです」と感謝していた。


    これからの農業が心配 

「日本の農業は、60歳から70歳代の高齢者が担っているんですよ。10数年もすると、農業人口がもっと減るでしょう。他の業界もそうですが、ベテランの技術をないがしろにしてきた結果、名人と言える人がいなくなっています。農業にしても、家単位では衰退していくばかりです。法人化する必要があると思います」。栗原さんの話ぶりから、日本の農業の現状を本気で心配していることがわかる。

「おたくは後継者がいますか」と、ちょっと答えにくいことを聞いてみた。「息子は今大学生ですが、いずれは農業を継いで欲しいです。農地もあるし、農業だけで生活していければ、こんなに楽しいことはないですから。でも今のように、国の農業政策がふらついてるようだと、困りますね」。

ニュースなどでも「日本農業の現状」は度々伝えられてはいるが、実際に農業をしている人から直接聞いたことで、日本の食糧自給率はどうなってしまうんだろうと、これまで以上に心配になってきた。


    つぎは太極拳の仲間 藤澤恵子さん

太極拳の仲間栗原さんが紹介してくれた”ひと”は、藤澤恵子さん。栗原さんがメンバーになっている太極拳の会「都筑無限太極会」を立ち上げた仲間である。

毎週木曜の夜に中川西中学校の体育館で太極拳の練習をしている。左は、平塚アリーナでの発表会の記念写真。

3回目までは男性だったが、はじめて女性が登場する。詳細は次回で。

                   (2010年1月訪問 HARUKO記)


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