エステサロンを開業している藤澤さんが紹介してくれたのは、粕谷奈都子さん(左)。藤澤さんが、ホームドクターとして信頼している内科医である。

地下鉄中川駅に隣接している「中川駅前内科クリニック」の院長だ。院長という肩書きから、もっと年輩の方を想像していたが、粕谷さんはご覧のように若い。

診療時間が終わる時刻にあわせて、午後2時半ころ訪問した。診療に引き続いてのインタビューだったが、疲れも見せず、てきぱきと答えてくれた。

藤澤さんが信頼しているのがうなずける、頼もしい先生である。


  子どもが4歳と2歳の時に開業

開業は2004(平成16)年。「なぜ都筑に開業したのですか」「特別な理由はありません。自宅が都筑区にあるからなんです」。

開業したときは、ふたりのお子さんは4歳と2歳。左は、お子さんがまだ小さいときの家族旅行の写真。

子育て真っ盛りのときに開業したバイタリティをまぶしく感じるが、そのお子さん達も、もう小学校の4年生と2年生。いちばん大変なときを乗り切ってきた。

子育てと仕事の両立は、同業者であるご主人や保育園などの協力があればこそだが、診療時間の問題も大きい。

一般的な開業医は、午前と午後の診療に分かれている場合が多い。でも粕谷先生の診療時間は、月火水金は9時半から14時半まで。土は9時半から12時半まで。午後の2時半以降は診療していない。

その代わり、昼休みをとらない。「昼休みしか来院できない患者さんには好評なんです。近くの東京都市大学の学生さんは、昼休みによく来ますよ」と粕谷さん。

子育てと仕事の両立に悩んでいるママたちには羨ましい働き方だが、高度な技術と経験があればこそだ。


  子連れでも安心して診療できるように

「子どもが小さかったころ、私が体調を崩しても医者に行きにくかったのです。若いママはどうしても自分のことが後回しになってしまいがちなんです。そのあげく、悪化してしまう場合もあります。開院するにあたり、こんな若いママの味方になりたいと思いました」と粕谷さんは熱く語る。

それもあって、キッズコーナー(左)を作った。子どもがぐずった場合には、受付のスタッフがあやすなどしているので、子連れママでも安心して受診できる。

「その他に、心がけていることはありますか」と聞いてみた。「そうですねえ。患者さんのことを受け止めるようにしています。患者さんの訴えを引き出せるように、話をさえぎらないで聞いています」。

大病院などでは、3時間待って3分診療が普通である。追い立てられるように診療してもらった覚えがある。自分の症状や思いを存分に話せたら、そして自分を受け止めてもらえたら、どんなにか安心するだろう。


   30代から50代の女性患者多い

「女医さんということで、なにか得をしたことはありますか」「得かどうかは分かりませんが、患者さんの4分の3は30代から50代の女性です。女性同士で安心なのではないでしょうか」。

私が若い頃は、女医さんなどめったにいなかったので、男性医師でも抵抗感はなかったが、今の時代がそうなのだろうか。東山田中学校の校医になったきっかけは、「なるべく女医さんを」という希望が、中学校から都筑区医師会に入ったからだという。

電子カルテで、男性の患者は青、女性はピンク色にしているが、全部がピンク色になった日もあるほど、女性患者が多い。

このさいだから、電子カルテ(左)なるものをしっかり見てみたいと、説明してもらった。

カルテはカードから来ている言葉だから、以前は紙が普通だった。最近は電子カルテが急速に普及しいるそうだ。

診察室の机には、2台のパソコンが並んでいる。右側には患者の記録、左にはレントゲンなどの画像を取り込んでいる。患者は目の前の画像を見ながら、症状の説明を聞くことができる。

「他にも利点はたくさんあります。データの管理がしやすいし、医療費の計算も速いんです。他の医院を紹介する場合もデータで送ることもできます」と、先生は、電子カルテの便利さを強調する。

パソコンの故障に泣かされている私は、いらぬことを聞いてみた。「もしパソコンが故障したらどうするんですか」「業者とタイアップして、二重・三重のバックアップをしています。情報漏れの心配もありませんからご安心下さい」。


   医者になったきっかけは”カエル”

粕谷さんが医者になろうと思ったのは、小学校6年生のとき。「親が医者だからというパターンではないんです。父はサラリーマンでした。母は、『手に職をつけなさい、できれば医者に』とは常々言ってましたが、もっと大きなきっかけがあったのです」。

それはカエル。「集団登校でみんなが集まるのを待っていたときに、車に轢かれた直後のカエルを見ました。胸部から腹部にかけて大きく裂けていたところから、肺と思われる臓器が外へはみ出ていました。カエルはまだ呼吸をしていたので、その肺が吸気時に風船のように大きくふくらみ、呼気時にぺしゃんこにしぼむという動きを繰り返していました。6年生の私にも、それが肺であるということはなんとなくわかりました。カエル自身の体より大きく膨らむものが体のなかにおさまって、規則的な営みを繰り返しているということが、机上の学問ではなく実際のこととして感じられたことが衝撃でした」と、身振り手振りで話してくれた。

願い通りに進んだ東京医科歯科大学では、循環器内科を専攻。「循環器って具体的になんですか」「血液を循環させる器官のことで、心臓・血管・リンパ管などをいいます。循環器科に進んだのは、心臓の血管などが外科っぽくて、わかりやすいと思ったからです。でも実際に専攻してみると、とても難しかったです」。左写真は学会で発表している粕谷先生。実は妊娠中である。


大学を卒業後、数ヵ所の病院に勤務、平成16年に開業した。もちろん今は、循環器ばかりでなく内科全般を診察している。

小学校6年のときの夢を実現した粕谷先生は、「患者の気持ちを受け止めて、信頼できるかかりつけ医師になりたいです」と未来も明るい。

最後に、最近の患者さんの傾向を聞いてみた。「ネット上であれこれ調べて『自分は病気である』と決め付けてくる方、あるいはネット上の知識を鵜呑みにして医者のアドバイスを信用しない方、逆に『これくらいならほうっておいても大丈夫だろう』となかなか受診されず、ひどくなってから来られる方など、さまざまです」。少し耳がいたいが、気をつけねばと心した

以前は、疑問があっても医者に質問など出来ない雰囲気だった。医師と患者は対等ではなく上下関係が当たり前の時代が長く続いていた。これからは、粕谷先生のように患者の身になってくれる先生が増えるといいなと思いながら、訪問を終えた。


  つぎの訪問はベビーステーション中川園長の岡田彰子さん

粕谷先生が紹介してくれたのは、「ベビーステーション中川」の園長・岡田彰子さん。粕谷先生の2人のお子さんがお世話になった保育園の園長さん。全国的に保育園不足が問題になっているが、そんなことも聞いてみたいと思っている。お楽しみに。  (2010年5月訪問)

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