2回目は、中川小学校(牛久保東2丁目)校長の和泉良司さん(56歳)。吉田区長に紹介されての訪問である。

電話で名前を告げると、用件を聞かれることもなく校長先生にまわしてくれた。最近の学校はガードが堅いと聞いているが、そうでもない。

「区長の紹介なら断るわけにはいきませんねえ。でも、新型インフルエンザが流行していますから、その対応などで、急にキャンセルせざるを得ないこともありますが、いいでしょうか」。

こんな電話でのやりとりがあっての訪問だったが、実際には約束どおりの日時に話をうかがうことができた。
   27代目の校長先生

中川小学校は、区内にある22の小学校の中でもっとも古い。明治7(1874)年の創業である。今年で135年を迎えた。

全国に学区制がしかれたのが明治5年。その直後に、まだ横浜市に編入されていない純農村地帯に小学校ができたことは感慨深い。それ以後、ニュータウン計画がはじまるまで、この地域の小学校といえば中川小学校だけだった。左写真は、明治30年ころの校舎(創立120周年記念誌から)。

その伝統校の27代目校長が和泉先生である。平成19(2007)年4月に着任してから2年半が過ぎた。

新任のすみれが丘小学校に6年間、次の保土ヶ谷区の桜台小学校に4年間、次が中区の間門小学校、茅ヶ崎小学校に9年間、緑区の新治小学校で副校長をつとめ、教育委員会に4年間勤務した。都筑区の小学校勤務が3校もあり、しかも期間が長い。

個人的な話になるが、私は新任のつまり30年以上前の和泉先生を知っている。すみれ小に着任なさった昭和53年は、子どもが入学した年で、卒業と同時に先生も異動なさった。残念ながら担任をしていただいたことはないが、先生の活躍は同じ学年でない親にも知れ渡っていた。土日にも子ども達と山野を歩き回るなど、楽しげな先生だった。

今回お会いしてみると、当時の印象と変わらない。「先生、お変わりになりませんね。管理職というより、新任当時の情熱と若さをを持ち続けていらっしゃいますね」。「そんなことありませんよ。実は、すみれ小での教え子の子どもが中川小にいるんです。それだけ歳をとったんですね。でも当時の教え子が立派な親になっているのを見ると、嬉しいもんです」。「教師冥利につきますね」。

      区長との出会いは中区の間門小学校のとき
  
小学校の先生は全教科を教えねばならないが、それぞれ専門をお持ちである。和泉先生は生物が専門だ。生物が専門の和泉先生と、造園が専門の吉田区長は、お互いにまだ30代のときに出会った。

勤務していた間門(まかど)小学校近くの名園・三渓園と本牧市民公園の間に崖がある。その崖のわき水を利用して、「トンボがくるような池を作ろうじゃないか」と生態の質的向上を目指すエコアップ作戦がはじまった。こうしてできあがったのが、本牧市民公園の「とんぼ池」(左)。

訪れた11月10日にトンボはいなかったが、ハンノキ・ヨシ・ガマが生える池は、トンボ天国にふさわしい気がした。
 
   自然と触れあうことで生命の大切さを教えたい

休日を利用して子ども達と山野を歩き回っていたのは、生物が専門ということもあるが、生き物にふれる体験を通して、生命(いのち)の大切さを知って欲しい願いがあったからだ。本やテレビを通しての知識だけでは、命の大事さは伝わりにくい。

「脳は小学校3〜4年の頃に、非常に発達すると言われています。このときに、水泳や鉄棒の逆上がりや数の概念を身につけさせることが大事なんです。同じように小学生時代の自然との触れあいは、原体験となって大人になってから残るんです」。小学生の原体験が、成人後の行動に関係あることを、熱く語る。

先生が関わった施設は、「とんぼ池」ばかりではない。「自然生態園」(左 10月撮影))の計画は、生態園に隣接する茅ヶ崎小勤務の時に持ち上がった。

紆余曲折はあったものの、自然生態園は、10年前に開園した。「2ヘクタールという狭い空間に、わき水・湿地・雑木林・谷戸・田がある。そして生き物が豊か。あれだけ質が高いところは、そうそうありません」。「生態園が目指すのは、人が関わっていく里山です。人の手を入れない方がいいという意見もありますが、ほっておけば、暗い鎮守の森になってしまいます」と専門家ならではの話が続く。

早渕川の親水広場にも関わっている。「川は危ないから近寄ってはいけない」ではなく、安全に子どもも大人も楽しめる川にするために、たくさんの人達が努力している。早渕川の本流・鶴見川は汚い川の代名詞だったこともあるが、最近は、ハグロトンボ・アユ・ウナギ・ドジョウもいるきれいな川になっている。

「実は学校に隣接する雑木林(2000平方b)を市に寄贈したいという方がいて、区民の森(仮)として整備することが正式に決まったばかりなんです」の、ビッグニュースを嬉しそうに話す和泉先生。「土木事務所と大棚町内会と小学校の3者で、憩いの場と学習の場に活用する方向で進めているところです」。

勤務校で必ずこういうチャンスに恵まれる先生も少ないのではないだろうか。実に運が良い方である。実力が運を導くのかもしれない。

帰り際にふと玄関脇を見ると、ミニ水族館(左)があった。早渕川の魚たちが、たくさんの水槽のなかで泳ぎ回っていた。校長に赴任後、子ども達と一緒に作ったそうだ。

 ていねいに育てられた子どもが多い  

「今の小学生はどうですか。30年以上子ども達と接してきて、何か変化を感じますか」と聞いてみた。「そうですねえ。社会全体がそうなってきているからでしょうが、一般的に我が子とご自分中心の要求をする方が増えています。また、我慢できずに自分のしたい事を無理にでも通そうとするお子さんが増えたような気がします」と、耳が痛い答えが返ってきた。

「でも、都筑区の子どもたちは、家庭環境に恵まれていて、ていねいに育てられた子どもが多いですよ。この地域のお子さんは学力面でも、全国平均をかなり上回っていると思います」とフォローすることも忘れない。

約束の時間をすぎても話がはずみ、帰る頃には暗くなっていた。私自身も子ども達も、こんな先生に教えてもらいたかったなと思いながら、中川小の坂道を下りた。

 
   つぎは「若竹会」会長の栗原泰光さん

和泉先生が推薦してくれた”ひと”は、若竹会会長の栗原泰光さん。若竹会は、中川小PTA役員のOB会。地域学習のコーディネーターとして、継続的に学校を支援してくださっているとのこと。詳細は次回で。
                                           (2009年11月訪問 HARUKO記) 
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