今回の訪問は、腹話術&マジックのキャサリン野村さん。本名は佳子だが、電話口でも「キャサリン野村でございます」と名乗っている。横浜マジシャンズクラブの会長が、会ってすぐ「君はキャサリンだね」と決めてくれた。

「健太君と一緒に撮りたいんです」

「でもトップは、普通の顔写真にしているんです」というやりとりはあったものの、快くインタビューに応じてくれたキャサリンさんに一歩ゆずって、ツーショット写真を載せることにした(左)。

健太君は15年来の大事なパートナーだから無理もない。もうひとりのパートナーの桜ちゃんは、明後日の公演に備えて入院中(メンテナンス)。今回は会えなかった。

住まいは隣区の青葉区だが、都筑区の区民活動センターまで来てくださった。「ここは、私がボランティアで腹話術をを最初に演じた場所なのです」

「じゃあ都筑区がボランティアデビューの場所というわけですね」

「腹話術を見た区民活動センターの林田さんが、あちこちに声をかけてくれたことで、依頼が増えました」


公演は900回を超えた! 
 

キャサリンさんのボランティア公演は、今年の8月6日の「あおば寄席」(下の写真)で900回になった。1ヶ月に8〜10回の依頼があるので、1000回目公演は来年には達成できそうだ。写真はキャサリンさん提供。


青葉寄席は、青葉台コミュニティハウスで毎年夏に開催されている。落語が中心だが、キャサリンさんの腹話術も大好評。小学校6年生のちびっこ落語家3人も出演している。

「お住まいの青葉区、デビューの都筑区以外でもやっていますか。お客さんはどんな方ですか」

「ボランティア登録をしているのは青葉区と都筑区ですが、要望があればどこにでも行ってますよ。来月は東京北区のホールで演じます。老人ホーム、デイサービス施設、老人会、はまっ子(横浜市の学童施設)、保育園、幼稚園など、毎年頼まれている所もあります。神社の秋祭りでもやっています」

「キャサリンさんは日本腹話術師協会の会員で、アメリカのラスベガスでも演じた実力者ですよね。プロとしてもやっていけるのに、ボランティアでなさっているのですね」

「プロになると、観客は料金の対価を求めると思うんです。そういうの嫌なのです。舞台から見るお客さんの笑顔が最高!」と声をはずませた。


人のために何ができるか


「ところで、腹話術を始めたきっかけは何ですか」

「6歳からピアノを習っていました。中学から師事していた東京音大教授の薦めもあって、東京音大の高等学校と大学に進学。音大時代は特待生だったので、授業料を払わずにすみました。大学推薦でフランス留学1期生になるはずだったのですが、留学制度が翌年に延びてしまい、教授が推薦してくれた成徳短期大でピアノ教師の職を得ました」

「まあ!誰もが羨むほどの恵まれた人生ですね。なぜそのままピアニストにならなかったのですか」

「短大で働き始めた4年後、右腕がまったく動かなくなりました。短大も首になり、ピアニストとして生きる道が閉ざされてしまったのです。それまでは天狗になるほど順調でしたから、いっときは生きる希望も失いました。この時に考えたのが『人のために何ができるか』でした。これからは自分のためだけではなく、人のために生きようという心境になりました。病は誤診だったので今もピアノ教師をしていますが、手術痕は残っているんです」

「ウツウツしていた時に、腹話術を知ったのですね」

「2001年の正月番組で”いっこく堂”さんが、腹話術をしていました。見ているうちに『これだ!』とひらめいたんです。すぐにプロの先生に習いました。中学時代に演劇部で主役をしていたので、演じるのが性に合っていたんでしょうね。2002年ごろから少しずつステージにも立てるようになりました。2003年にはアメリカのラスベガスで開かれた『世界腹話術協会大会』にも、日本から2人だけ出ることができました」(左写真

「ラスベガスですから、英語での腹話術ですね。日本語でも難しいと思うのに、英語でやったのですか」

「はたして私の英語が通じるか。英語しか使ってはいけない保育園のアメリカ人教師5人と幼児たちに、1年間見てもらいました。それがね。大うけだったのです。アメリカ人はオーバーアクションで喜んでくれました。これで自信がつき、ラスベガスでも堂々と演じることができました」

「健太君と桜ちゃんは、この時からのパートナーですね。名前の由来を教えてください」

「桜は、日本を代表する花なら分かりやすいとつけました。健太は思いつきです。15年前に、健太は15万円、桜は13万円で買いました。健太は発泡スチロール製、桜はプラスチック製ですが、汚れたりまつ毛がとれたりするのでメンテナンスも必要です。季節や場所によって洋服を変えるので、衣装代もかかります」


 オリジナルの内容


区活でのインタビューから2日後の9月14日、高齢者のための交通安全講習会が、都筑区老人クラブ連合会と都筑警察署の主催で開かれた。キャサリンさんが30分間出演すると聞き、舞台を見てきた。

老人クラブ連合会のみなさん(約100名)は、キャサリンさんの腹話術を初めて見る人がほとんどだったが、不思議なマジックと楽しい腹話術に大満足。30分間の持ち時間はあっという間に終わった。「上手だねえ」「たいしたもんだねえ」「いっこく堂さんより上手だねえ」「健太君と桜ちゃんがカワイイ」「キャサリンさんもステキ」の会話が、あちこちから聞こえた。

 
交通安全にちなんだ手品を披露
赤・黄・青の3色が自由自在に変化

 
詐欺防止の替え歌を順繰りに歌っているところ
桜ちゃんと健太君はみんなで歌いたいと、ごねる

キャサリンさんは、客層ごとにマジックや腹話術の内容を変えている。今回は高齢者のための安全講習会のアトラクションだったので、マジックも信号にちなんだもの。腹話術も高齢者向けのオリジナル台本を作った。

「松の木小唄」を替え歌にした「渡る世間はワナばかり」を3人で交互に歌ってくれた。
「♪詐欺にもいろいろありまして オレオレ 架空請求 還付金詐欺 自分だけは大丈夫と思っているあなた 危ないよ〜♪」

健太君と桜ちゃんが、「代わりばんこでなくて一緒に歌いたいよう〜」とごねる。「それはね、大人の事情でダメなのよ」とキャサリンさんがなだめるので、笑いの渦がおこった。

公演が終わった後に、キャサリンさんと話してきた。のど飴をなめている。「やっぱり喉を酷使するんですね。20分間、ずっとしゃべっているんですものね」

「公演前にものど飴、終わった後にものど飴です。腹話術で大事なことは、お腹の筋力と声帯の強さです。かすれてはいけないし、風邪をひいていても声を出すことが求められます」

「他に気をつけていることはありますか」

「ニコニコしながら話すことです。桜ちゃんが話している時の健太君の表情にも気を遣います。音程も難しいんです。桜ちゃんは私より1オクターブ高く、健太君は私より1オクターブ低いんです」

話を聞いた2日後に実演を見たことで、腹話術の難しさと奥の深さと楽しさが一層理解できたような気がする。


ピアノと大正琴


冒頭に「腹話術&マジックのキャサリンさん」と書いたが、「腹話術とマジックはボランティアですから、本業ではありません。プロと言えるのは、ピアノと大正琴です」と言う。

ピアノは東京音大の特待生だったほどから言うまでもないが、大正琴も絃志流家元の代行をしている腕前。コロンビアとビクターでレコーディングしてCD化したこともある。今は自宅でピアノを週に4日、大正琴を3日教えている。

 
ピアノの演奏会
20代のころ
 
大正琴のレコーディング
コロンビアのスタジオで



以前社交ダンスやフラメンコをやっていた延長で、今はタップダンスを習っている。英会話の個人レッスンも続けている。折り紙のインストラクターの資格も持っている。最近は「笑い文字」を習得し、10月には資格がとれそうだ。

インタビューの時に、私の名前を笑い文字にしたポストカードをプレゼントしてくれた。身体がいくつあっても足りないほど忙しいキャサリンさんに、心のこもったカードをもらい感激してしまった。自分の名前が大好きになってしまう笑い文字。レポーターの名前を公にするのは恥ずかしいので、キャサリンさんの笑い文字をどうぞ(左)。

教えたり、習ったりで1週間の予定は埋まっているが、それでも腹話術のボランティアは続けたいと話してくれた。

何度も言うようですが、人の笑顔を見るのが私の幸せなんです。日程があえば、どこにでも行きますから声をかけてください」とキャサリンさん。

公演の依頼はキャサリンさんまで

                          (2016年9月訪問  HARUKO記)
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