茅ケ崎南3丁目にある株式会社テクニカン(左)を訪問してきた。 センター南駅から徒歩8分、歴博通りに面した便利な場所にあるにもかかわらず、テクニカンの会社を知っている人は少ないだろう。外観も目立たないし、従業員は20名足らず。

ところが、この小さな会社の業績を取材しているマスコミは数知れない。官民の視察も頻繁である。「知らぬは地元ばかりなり」ということで、区民レポーターとして恥ずかしい。

注目しているのは日本ばかりではない。会社のHPは、English・中文(繁体字)・中文(簡体字)・ハングルにも対応している。この会社のグローバル化が一目瞭然だ。世界各国からのメールにも、その言語で返信できる社員がいる。

なぜ国の内外から注目されているのか。それは後で詳しく説明するが、「液体凍結」という優れた冷凍技術を持っているからだ。

山田義夫社長(68歳)みずから3時間にわたって、実演と熱弁をふるってくださった。1対1でも話が途切れることは一度もなく、レポーター冥利につきる楽しい時間だった。


 液体凍結(リキッドフリーザー)ってなに?


「しょっぱなから難しい話になりますが、世界中から注目されている液体凍結について教えてください。今までの冷凍方法と何が違うのですか」

液体凍結というのは、フローズン液に食品を浸して急速に凍結することです。一般的な冷凍は冷気の中に入れて凍らせています。家庭の冷凍庫もそうですね。液体凍結は、空気凍結の常識をくつがえしたのです

「フローズン液はなんの液体ですか」

水40%にエチルアルコールを60%混ぜた水溶液です。業務用に使っている”凍眠”は、この水溶液を-30度まで冷やしてから食品を入れます。液体は空気に比べると、熱伝導性に優れています。だから非常に短時間での凍結が可能になります」

「そういえば、気温90度のサウナならなんとか我慢できますが、90度のお湯はちょっと触れただけで熱い。液体の熱伝導がいいのは実感できます」

「その通りです。液体のカロリーは気体のカロリーの2500倍から3000倍もあります。その原理を利用しているわけです」

写真でお分かりのように、山田社長は身振り手振りで分かりやすく説明してくださった。液体凍結の素晴らしさにも目を見張ったが、それ以上に感動したのは、交流ステーションという小さな団体にも分け隔てなく丁寧に対応してくださったことだ。

「ここ数日だけでもこんなにお客さんが来ています」と名刺を見せてくださったが、大手マスコミはじめ某県知事や大手メーカーの専務など。外国からのお客も多い。世界36か国で特許を取得している。


 凍結と解凍を繰り返しても味が変わらない


テクニカンは、リキッドフリーザーの「凍眠」ばかりでなく、枝肉トロリー、ひき肉バラ凍結器、食肉洗浄コンベア、野菜水切り機などいろいろな商品の開発をしている。

主力商品の「凍眠」だけでも、小型から大型まで何種類も扱っている。左写真は凍結能力18`の小型の凍眠。

言葉で説明するより、実際に凍眠を使ってみましょう」と、牛肉とマグロの刺身とコンニャクゼリーと果物で実演してくれた。

凍眠で冷凍した牛肉を、水道水で解凍した。解凍した肉は驚くなかれ。一滴のドリップもない。力いっぱい拳で叩いても、ドリップは出ない。ここで言うドリップは、タンパク質などの栄養素やうま味成分の水滴のこと。

さらに驚くことに「もう一度凍結してみましょう」と、いったん解凍してこぶしで痛めつけた肉を再度「凍眠」に入れた。5分もしないで凍結した

液体凍結のいいところは、解凍したものを又冷凍しても味が変わらないんです。解凍はどんな方法でもいいです。常温でも加熱でも流水でもなんでもかまいません。凍眠は凍らせるのではなく、眠らせるのです」と社長は、ベテラン主婦の常識をくつがえすことを言う。

家庭でも気軽に冷凍ができる冷凍庫が売り出された時、嬉しかったことを覚えている。でも、冷凍焼けしたり、臭いが付着したり、解凍の仕方が難しかったりで、「冷凍は便利だけど味は落ちる」が主婦の常識だった。主婦ばかりか食品関連の社員でさえ、一昔前まではそれが常識だった。

その常識をくつがえしたのが、液体凍結だ。凍結と解凍を3度繰り返した牛肉を社長が焼いてくださった(左)。ご覧のようにドリップは出ていない。同じように、マグロの刺身、バナナとマンゴーも試食した。どれもこれも一流レストランの味と変わらない。びっくりポンである。

プロでも、これが冷凍したものかと驚くんですよ。区別がつかないと言ってます。日本では1500社以上が凍眠を使ってくださっています。でも冷凍品を嫌う消費者がいるので、シークレットなんです。テクニカンの名前が世に知られていないのは、このためです。でも銀座千疋屋の”銀座フレッシュリーフローズンフルーツ”はコラボで開発したのでテクニカンのマークが入ってます


 凍結時間が勝負!!


液体凍結の場合、ドリップが出ないことをこの目で確認できたが、テクニカンによる実験データが左の表である。

牛肉の肩、モモ、ロースの比較だが、いずれも一般的な空気冷凍に比べ10分の1のドリップである。

ドリップが多いということは、うま味成分やタンパク質が出てしまい、食べた時にパサパサ感がある。ほとんどの方は、家庭の冷凍庫で実感しているにちがいない。

空気冷凍の場合はゆっくり凍らせるために、肉の内部の水分が大きな結晶を作ってしまい、細胞壁を壊してしまうのだ。


凍結において何がいちばん大事かというと、温度ではないんです。スピードです。液体凍結の場合は空気凍結の20分の1の時間で凍ります。凍結時間が短いほど味が劣化しません」と社長は強調した。なにはともあれ、違いを見て欲しい。上段が空気冷凍による解凍後、下段が液体冷凍による解凍後の写真。左から鶏肉、アジ、こんにゃくゼリー。                    (テクニカンの資料)

 
 


外食産業の伸びが転機


「テクニカンの創業は1988年と聞いています。山田さんが40歳の時ですね。それまでは何をなさっていたのですか」

父は東京芝浦で初代の食肉理事長。そんなこともあって兄弟7人女性もみな畜産に関わっていました。でも僕は乗馬クラブを経営したり、漁師をしたり、六本木でステーキハウスを開くなど面白そうだなと思うことをやっていました。姉の会社で食肉の仕事をしている時に、転機がきました。外食産業が急に伸びてきたんです。生鮮食品だけを扱っていたら、消費者の需要に応えられないんです。品質が落ちない冷凍法はないだろうか。海中の水が身体から熱を奪いやすいことを知っていたので、液体を冷凍に使うアイディアはすぐ思いつきました。半年で試作機を完成。この機械を製造販売するテクニカンを創業したわけですが、最初は売れなかったですよ。業界で知られるようになったのは、ここ10年ぐらいです

「都筑に本社を構えたのはなぜでしょう」

東京出身ですが、ヨットが趣味なので横浜が好きなんです。住まいも大倉山(港北区)ですし、ここは便利なんですよ。第三京浜や東名に近い。新幹線からも近い

「仕事が忙しそうなのに、土日はヨットですか。羨ましい」

ヨットというより自然が好きなんです。だから海ばかりか山でキャンプをすることもあります。人間は遊ばないと良い知恵も出ないもんです」

液体冷凍を思いついたのも海でよく遊んでいたから、仕事も遊び感覚ですと謙遜しながらおっしゃるが、趣味の話をしている社長の笑顔はホントにステキだ(左)。仕事がデキル人は、よく遊ぶと聞くが、ほんとうにそうなんだ!


 家庭の冷凍庫でも液体凍結が出来る!


「すばらしい冷凍方法をうかがいましたが、一般の家庭で”凍眠”を買うわけにはいきません」

家庭でも使いたいという要望に応えて、トレジャーボックスを製品化しました。家庭の冷凍庫はふつう-18度ぐらい、凍眠は-30度ですから、凍結時間に少し違いはありますが、それでもこのトレジャーボックスを使うと8分の1の時間で凍結します

トレジャーボックス(左)のなかでいちばん小さいのは、幅18センチ、高さ8センチ、奥行き26センチ。家庭の冷凍庫にも入る。トレジャーパックが4枚あり、この間に冷凍したいものを挟む。パックに入っている特殊な吸熱液が熱をどんどん奪う。

それじゃあ使ってみようと、家で試してみた。家人に「楽しそうに実験してるね」と冷やかされたが、社長のおっしゃることは本当だった。普通の冷凍庫で1時間かかったトンカツ用の豚肉の切り身が、トレジャーボックスでは7分ぐらいで凍った。もちろんドリップもなし、パサパサ感もない。冷凍ご飯も炊き立てのように美味しかった。


僕はね、世の人のためになるモノを作りたいと、ずっと思っているんです。みんながハッピーになって欲しいんです」と別れ際におっしゃった。世界中の人たち、特に離島や限界集落に住んでいる人、砂漠や山岳など過酷な環境で暮らしている人が、生鮮品と同じような味を安価で味わえるなら、こんなハッピーなことはない。もうすぐ古希を迎えるとは信じられないほどお若い山田さん。ますますお元気でと思わずにはいられない。

               (2016年2月訪問 HARUKO記)
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