武蔵工業大学の工学部(世田谷キャンパス)は、東京都世田谷区玉堤にあるが、今回は、都筑区牛久保西3丁目にある環境情報学部(横浜キャンパス)を訪問してきた。大学は企業ではないので、タイトルと少し違うことになるが、この大学と都筑区との関わりを思うと、是が非でも話を聞いてみたかった。

いまだに「象牙の塔」ごとき大学もあるなか、横浜キャンパスは、市民大学講座・講演会・講習会などが頻繁に開かれ、気軽に足を踏み入れることができる。子どもでも親しみを持っている開かれたキャンパスである。

特に学園祭「横浜祭」の時は、一般市民が構内にあふれる。他大学の学祭には見られない光景だ。武蔵工業大学が都筑区にあるだけで、区民には嬉しい「お宝」である。

レポーターは男性2名、女性3名。環境情報学部長の増井教授(右)は、大学全般、特に横浜キャンパスの環境情報学部誕生秘話を、熱く語ってくださった。





武蔵工業大学は、昭和4(1929)年に、武蔵高等工科学校として東京の五反田に創立され、77年の歴史を持つ。

訪問した環境情報学部が設置されたのは、1997年4月。ちょうど10周年を迎えた。訪問した日は、前日まで開催していた「10周年横浜祭(6月3日・4日)」の余韻(左)があり、学生が後片付けをしていた。

技術開発(工学)こそが、人類の幸せにつながるという考えに、疑問が投げかけられたのは、1990年ころである。

今後は、技術開発だけでなく、環境も考慮しなければならないのではないか
。環境を学ぶ必要性を強く感じての、「環境情報学部」新設だった。

おりしも、1997年12月に、地球温暖化防止のための世界会議「京都会議」が開かれ、CO2を2008年から2012年の5年間に、1990年比6%削減するという目標がかかげられた。

1997年4月の環境情報学部環境情報学科の設置は、まさにグッドタイミングだったのだ。




工業大学というと理系の大学だと思いがちだが、横浜キャンパスは、文系と理系の枠を越えた文理融合の学問・研究を行っている。意外にも、どちらかというと、文系の学部である。当初の「環境情報学科」に加え、2002年に「情報メディア学科」が増設された。2つの科には43の研究室があり、それぞれユニークな研究をしている。

都筑区と連携しての研究・教育活動や、地域に密着した研究・調査を継続して行っている研究室も多い。鶴見川や早渕川の水質調査、中央公園での里山調査、中川駅周辺の商店街の変遷、都筑区国際化マトリックス、区内施設やレストランの分煙状況調査、センター南駅のバス時刻表とマップづくりなど。詳細は、企業訪問第2弾として、改めて取り上げる予定である。

環境と情報は、一見無関係に思えるが、環境を考えるうえで、例えば、GPS(Global Positioning Systemの略・地球規模測位システム)などの情報技術は不可欠だ。

最新のITを学ぶ施設・情報メディアセンター内部を見せてもらった。

左は、情報処理演習室のひとつ。「空き時間でも勉強しているのですね」の質問に、「課題が多くて悲鳴を上げています。遊ぶ暇はないんです」と、複数の学生から同じ答えが返ってきた。しかし、言葉とは裏腹に楽しげだった。


左は、プレゼンテーション・ラボの机。教壇には大きなスクリーンが用意され、パワーポイントなどを使った授業も出来る。そのうえ、ひとりひとりの机には、情報コンセントとACアダプタが設置され、ノート型パソコンを持ち込んで受講できる。

ノート型パソコンは、部屋ばかりでなく、キャンパス内ならどこでも無線LANを利用して使う事が出来る。一昔も二昔も前に大学生活を送った私は、驚嘆と羨ましさを同時に感じてしまった。





環境や情報を考えるうえで、異文化コミュニケーションは欠かせない。価値観が違う人達と分かり合えないことには、環境問題は解決しないからだ。

国の内外で、フィールドワークを行っているのもそのためだ。地域活動のネットワークのあり方を考えたり、地域住民とフィールドワークをすることもある。

海外でもフィールドワークをしている。中国の内モンゴル地区では沙漠緑化フィールド研修、オーストラリアでは熱帯雨林保全フィールド研修、ネパールでは環境教育フィールド研修、カナダでは循環型社会現地体験視察を行っている。

異文化コミュニケーションをはかるうえで、外国人留学生も欠かせない。環境情報学部(研究科を含)には、平成18(2006)年現在、100名の留学生がいる。院生を含む全学生が2000名弱なので、その占める割合は大きい。

国別では中国73名、韓国9名、マレーシア4名、ネパール4名、インドネシア2名、ベトナム2名、台湾、ミャンマー、トルコ、タイ、イラン、アメリカが1名ずつ。彼らがどんな思いで、この大学で学んでいるのか。率直な感想を聞くために、アメリカ人・トルコ人・ミャンマー人・ネパール人に、2回に分けてインタビューさせてもらった。詳しくは次の頁でごらんいただきたい。


ロベル・アダムさん(アメリカ) ダルビッシュオール・ムスタファさん(トルコ) ラン・ム・ゾウさん(ミャンマー) カンデル・アニタさん(ネパール)

 


環境情報学部は、大学として初の環境マネジメントシステムISO14001の認証を受けたことで、全国的に知られる。横浜キャンパス開設の翌年・1998年の取得は、設計の段階でエコキャンパスを意識していたこと、開設当初の教職員と学生の熱意の賜物である。

現在では約60の大学が取得しているが、構成員を学生全員にまで広げている大学は、非常に少ない。新入生といえど、システムを認識していなければ、大学全体の認証が取り消されることもあり得る。8年間も持続している陰には、ISO学生委員会の存在がある。委員会は、新入生にも徹底させるために、エコツアーや環境ISOフォーラムを開くなど活発に活動している

ISO学生委員会の代表・門谷さんと、環境教育部会責任者・簡さんが、学内を1時間にわたり案内してくれた。「光」「水」「熱」「風」など自然の恵みを最大限に利用し、人と自然の共生を目指している。すべてを紹介するスペースがないが、下の写真でエコキャンパスの様子を、感じ取って欲しい。

熱心に案内してくれた門谷さん(右)と簡さん(左) 各建物に、夏の直射日光を遮るひさしが、ついている。冷房使用が抑えられる。 ビン・ペットボトル・アルミ・可燃物・スチール・石油化学製品に分別。
採光をよくするために、壁の部分をガラスにしているハイサイドライト。 雨水を地下のタンクにためて、樹木や体育館の屋根に散水。これは樹木散水のための蛇口。 ペアガラスやLow-eガラス(特殊コーティング断熱ガラス)を各所に使い、空調効果を高めている。

この稿をまとめるために、横浜キャンパスに、5〜6回も足を運んだ。増井学部長のお話を聞くため、留学生とのインタビュー、ISO学生委員によるエコキャンパスツアー、情報メディアセンター見学と、目的はさまざまだったが、いつ訪れても、構内は心地よかった。しかも学生や会釈して通り過ぎる先生方が、非常に感じが良い。

今後も、地域住民と密接な関係を持ち続けて欲しい。そして学問的にも更に発展して欲しい。こんなことを期待して、キャンパスを後にした。
(2006年6月訪問  HARUKO記)

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