横浜市港北区小机にある小金井農園を、2人で訪問してきた。自宅は徒歩数分で都筑区という区界にあり、畑の一部は都筑区にもある。

JAの野菜直売所・メルカートの野菜袋には、生産者のラベルがついている。いつも珍しい野菜を出荷しているのが小金井幸雄さんだ。「きまじめ野菜」と印刷された袋には、HPのURLまで書いてある。ぜひこの人の農園を見たいという思いが、今回の訪問につながった。


サラリーマンをやめて農業の道へ

小金井幸雄さん訪問したのは10月はじめ。ハウス(左)でのメロン栽培もほぼ終わり、トマトの収穫期も過ぎ、かろうじて、ピーマンと茄子が畑に残っているだけだった。その意味では訪問時期が悪かったが、小金井さん(左)は畑を案内しながら、いろいろな話をしてくださった。

理工系の大学を出た小金井さんは、1994年から2000年まで一流企業に勤めていた。農業の道に入ったのは30歳前で、まだ8年しか経っていない。

サラリーマン出身とはいえ、もともとは農家の長男だったので、小さい頃から畑を手伝っていた。会社勤めをしている頃、自分のやっている仕事が直接目に見えないこともあって、そんな生活に疑問を感じるようになった。「そんな時に、おやじが腰を痛めたんですよ。それで農業を継ぐことにしたんです」と、会社を辞めた動機を話してくれた。辞めることに抵抗はなかったし、今も後悔していない。

ちなみに、農地を持っていない人が脱サラで農業を始めたいと思っても、農地は簡単には手に入らない仕組みになっている。まず借地で農業をやり、実績が認められてからでないと、農業ができないのだ。

その点、農家の長男に生まれ、農業をやる条件が最初から整っていた小金井さんは、遠回りしなくてもいいので非常に恵まれている。


自分で値段を決めたい!

お父さんの頃は、全農大和という共同出荷場に、ハウストマトを主に納めていた。ハウストマトは、あまり天候に左右されないからだ。でも値段は人任せ。自分が作った作物にもかかわらず、買い取られる値段は、市場の原理で決まってしまう。

フレッシュビーンズ「自分が作った作物の値段は自分で決めたい!」。当然のことを、実現するためにどうすればいいか。「売り方を工夫しなければならない」「市場が求めるのは多量少品種だが、少量多品種にしたらどうか」「他の農家が作らないような商品(商品の差別化)が必要ではないだろうか」など小金井さんは、いろいろ考えたという。

この頃から、地域で収穫した作物を地域で消費しようという「地産地消」の動きが出てきた。この流れに乗った形で、青果市場に共同出荷することをやめ、消費者の顔が見える販売を始めた。

今は自宅近くにある2ヵ所の直売所(左)と、JAのメルカートきたと、仲町台の文化堂というスーパーの4ヶ所で売っている。

直売所には、フレッシュビーンズというオシャレな名前がついている。「採りたての枝豆の持つ香りと味わいの高さからヒントを得て、新鮮で美味しい野菜をお届けしたいという思いをこめてつけたんです」と小金井さん。


 白い茄子も緑の茄子もある

まず最初に、都筑区にあるピーマン畑と茄子畑を見に行った。JAの直売所メルカートで、小金井幸雄のラベルがついた黒いピーマン・白いピーマン・黄色いピーマンを見たときは驚いた。こんな色のピーマンは、日本ではもちろん、外国の市場でも見たことがない。しかも緑のピーマンと値段は変わらない。

白い茄子にはなおさら驚いた。茄子には、関東で普通に出回っている千両茄子以外に、米茄子・長茄子・賀茂茄子・丸茄子・水茄子など数え切れないほど種類があると聞いている。しかし、白い茄子や緑の茄子を見たのは初めてだ。茄子色と言うからには、茄子といえば紫紺のものだと思いこんでいた。茄子も珍しいからとて高いことはない。

小金井さんは「もうほとんど収穫は終わりです。だから勢いがありません」と申し訳なさそうに言うが、実際に畑でなっている珍しい野菜を見て感激してしまった。こだわりのレストランを経営しているシェフが、小金井さんの野菜を求めるのもわかるような気がした。

白ピーマン 黒ピーマン バナナピーマン
白いピーマン炒めても生でも美味しい。 黒いピーマンサラダや白菜の浅漬けに入れると彩りがいい.。 唐辛子のように見えるがバナナピーマン生で食べると美味しい

白ナス タイナス アップルグリーン
白い茄子焼き茄子にすると抜群 タイナスという緑の長茄子。油で炒めると美味しい。 アップルグリーンという緑の丸い茄子。煮ても油炒めでも美味しい。


  いちばん美味しいトマトは春トマト 

小金井さんが1年を通していちばん力を入れているのが、トマト栽培だ。9月下旬から翌年の6月中旬までは鉄骨フィルムハウスで、6月上旬から7月中旬までは露地で栽培している。ほとんど途切れることなく栽培しているが、いちばん味が良いのは2月から4月にかけての春トマト。太陽のエネルギーが、果実に十分に蓄えられるのだという。

私が小さい頃はトマトといえば、夏しか口に入らなかった。だからハウスものは、味も良くないだろうと勝手に決め込んでいたが、どうもそんな単純な話ではなさそうだ。小金井農園では樽の形をした容器に土の代わりの培地を入れて苗を植え付ける。病気が出ても樽が分離されているので被害が拡大しなくてすむ。だから農薬も大幅に減らせる。

トマトは昼夜の温度差が大きい方が味が良い。温度管理のためにハウスの中に環境制御装置が付いているが、微調整は小金井さんがやっている。「マイコン付きといっても、任せっぱなしにはできません。樹の状態を観察しながら、人間の目で判断することがポイントです」。美味しくてしかも安全な野菜を収穫するために、愛情をかけて手抜きは一切しないという姿勢が伝わってくる。

樽栽培 温室のトマト
小金井農園は樽の形をした容器で苗を植え付ける。 たわわに実ったトマト。

農薬を減らすための工夫は、環境制御装置の他にもしている。温室の換気口に防虫ネッをおいたり、蠅取り紙のような粘着トラップで害虫を捕殺することもしている。茄子畑を見たあとに、ハウスの中も見せてほしいと頼んだら「どんな害虫がついているか分かりませんから、簡単にお入れすることはできないんです」と断られてしまった。その徹底ぶりにも感心してしまった。「農薬は消費者・生産者双方の身体に影響があります。極力減らしたいんです」と言ったあとに「農薬ってびっくりするほど高いから、その意味でも減らしたい」と笑いながら付け加えた。


     メロンもイチゴも栽培

訪問した時は、収穫したばかりのマスクメロンが籠に入っていた。小金井農園の小机メロンは、10月が収穫期。メロン栽培は水管理がとても大事だが、同じぐらいに収穫のタイミングも重要だ。その樹が持っているパワーが果実に送り込まれる時期をねらって収穫している。今では、完熟度を手の感触でわかるようになってきたそうだ。

私も賞味させてもらったが、とびっきりの甘さと、とろけるような食感だった。マスクメロンが身近な場所で栽培されていることなど知らなかったので、思わぬ発見だった。もちろん地方発送も受けている。贈答品として大好評だという。

ハウスのメロン 収穫したメロン 贈答用のメロンの箱
ハウスの中のメロン 発送を待つばかりのメロン この箱で送られる。

メロン以外の果物は、「章姫」と「紅ほっぺ」という品種のイチゴを栽培している。収穫は12月上旬から5月下旬までなので、もうすぐだ。洗わなくてもすむように安全と安心には非常に気を配っている。農薬を減らすためにに、害虫の天敵を温室の中に放す方法もとっている。

野菜や果物栽培に関する話は、時間を忘れてしまうほど、面白かった。今は、自分の子供さえも手間暇をかけないで育てる人がいる。それと比べるのもなんだが、小金井さんはどんな作物にも、愛情をこめてきまじめに取り組んでいる。キャッチフレーズの「きまじめ野菜」を、本当に実践している若い農業者に心から拍手をおくりたい。

「今の生活は5時起床で、休みはほとんどありません。でも、土日が待ち遠しかったサラリーマンの頃にくらべ、つらいことはありません。原価計算をすると合いませんが、時間に縛られませんし、この仕事は自分が求めているものと一致します。それに、美味しい野菜を口にしたときの消費者の顔を見るのは何よりです」。「つらいことはありませんか」の質問に、こんな答えが返ってきた。(2008年10月訪問 HARUKO記)

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